神経疾患治療薬開発に重要なマウスモデル、「モーションキャプチャ」実施は困難だった
沖縄科学技術大学院大学(OIST)は6月30日、開発中の「マウスの動きを極めて高い解像度で測定するモーションキャプチャ技術」について発表した。この研究は、OIST神経活動リズムと運動遂行ユニットのボグナ・イグナトフスカ・ヤンコフスカ博士らの研究グループによるもの。研究成果は、「eNeuro」に掲載されている。

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マーカーを用いたモーションキャプチャは、ビデオゲームや大作映画など、エンターテインメント業界のさまざまな場面で広く活用されている。3次元で高精度な追跡を可能にするこの技術は、神経科学の分野に革新をもたらす可能性がある。しかし、同分野では長年こうした手法に注目が集まっていたにもかかわらず、大きな動物ではモーションキャプチャが容易であるのに対しマウスのような小さな動物では多くの課題があったため、高品質なデータ取得には至っていなかった。
マウスモデルはパーキンソン病をはじめとする神経疾患の治療薬の開発において、重要な役割を担っている。これらの疾患は多くの場合、運動機能に障害をもたらし、震えなどの症状を和らげる治療が求められる。動物実験でこれらの疾患を効果的にモデル化するには、わずかな動きも正確かつ精密に捉えて追跡する必要がある。しかしマウスの体のサイズに加え、周囲の物を食べる習性や体に何かが付着すると行動が変容する点が、モーションキャプチャの実施を難しくしてきた。
マウスの動きを高解像度で測定するモーションキャプチャ技術を考案
研究グループはハリウッドから着想を得て、マウスの動きを極めて高い解像度で測定するモーションキャプチャ技術を考案した。マーカーを用いたアプローチにより、AIや機械学習を用いた大規模なデータ処理を不要とし、走ったり登ったりといった複雑な運動の高品質なデータを得ることができるという。
壁を無くすことでカメラの邪魔を排除、自由な動きでマウスのストレスも軽減
実験では、「平らな床面」「トレッドミル」「クライミングホイール」という3種類のオープンスペースの周囲にカメラを設置し、それぞれの空間を撮影エリアとした。これらのカメラは、あらかじめマウスの体に配置されたステンレス鋼と反射コーティングされたボールでできたマーカーの反射を検出する仕組みとなっている。これにより、小さな震えから大きな動きまで、全身の動きを捉えることが可能になった。また、実験セットアップから壁を無くすことで、カメラに邪魔されずに反射が捉えられるようになった。
一方で、反射を捉えるにはマウスをマーカーに慣れさせ、マウスがカメラから離れないようにする必要がある。そのため、マウスの取り扱いには細心の注意を払い、報酬や罰を与えるようなシステムは一切使用せず、マウスを自由に動き回らせた。その結果、マウスの自然な動きや行動を記録できただけでなく、マウスにストレスを与えないという点でも有効だったとしている。
医薬品開発における動物実験の標準モデルを改善する可能性
自動的な行動と空間内を自由に動き回るような探索的な行動は、それぞれ異なる脳メカニズムが関わっている。今回の研究で、さまざまな課題に取り組むマウスの詳細な3次元データを取得できるようになったことで、脳の特定の領域が薬物や疾患によってどのように影響を受けるかを知るための正確なモデル化が期待される。
「本研究室では、モーションキャプチャから脳イメージングまで、多様な神経科学手法を開発している。これらの技術を組み合わせることで、多様なデータの収集・分析が可能になる。これはマウスに対する理解を飛躍的に深め、医薬品開発における動物実験の標準モデルを改善する可能性を秘めている」と、研究グループは述べている。
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