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日本人のアルコール反応性、遺伝子解析で3タイプに分類可能-理研ほか

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2025年07月23日 AM09:00

アルコール代謝の個人差、ADH1B・ALDH2遺伝子だけでは説明できなかった

理化学研究所は7月1日、若年日本人を対象とした包括的遺伝解析から、日本人のアルコールの効き方は3タイプに分類可能であることを明らかにしたと発表した。この研究は、同研究所生命医科学研究センターゲノム解析応用研究チームの寺尾知可史チームディレクター(静岡県立総合病院免疫研究部長、静岡県立大学特任教授)、ファーマコゲノミクス研究チームの曳野圭子研究員、莚田泰誠チームディレクター、国立病院機構久里浜医療センターの松下幸生院長らの共同研究グループによるもの。研究成果は、「Neuropsychopharmacology」のオンライン版に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

アルコール関連疾患は、世界的に重要な公衆衛生上の課題の一つである。世界保健機関(WHO)の「Global Status Report on Alcohol and Health 2018」によると、アルコールの有害使用(健康被害や社会的・経済的な損失、事故・暴力・家庭問題につながる過度の飲酒)は全死亡の約5.3%に関与しているとされる。ただし、アルコール代謝には個人差があり、その違いは環境要因に加えて、遺伝的要因にも影響を受けることが知られている。

アルコール代謝に主に関与する遺伝子としては、ADH1B(アルコール脱水素酵素1B)およびALDH2(アルデヒド脱水素酵素2)があり、東アジア人はともに特有の遺伝的多型を有している。しかし、ADH1BおよびALDH2遺伝子のみでは、アルコール摂取後の主観的反応(Subjective Response:SR)や行動変化を十分に説明できていなかった。

日本人で発見された3つの遺伝子を含め、アルコール反応性と遺伝的要因の関連を解析

近年、GCKR(rs1260326)、ALDH1B1(rs3043)、ALDH1A1(rs8187929)の3つの新たな遺伝子の関連領域が、日本人を対象とした飲酒行動のゲノムワイド関連解析(GWAS)で飲酒行動に関連する遺伝子領域として同定された。

SRは、アルコール摂取時の酔いの強さや気分変化などの自覚的反応で、アルコールの薬理作用を反映する指標である。遺伝的要因と疾患を結びつける中間表現型(エンドフェノタイプ)として位置付けられ、アルコール関連疾患のリスク予測因子としての有用性が報告されている。しかし、SRに対して複数の遺伝的要因を包括的に評価した大規模解析は行われていなかった。

そこで今回の研究では、アルコール反応性に関与する時間依存的な主観的感覚の変化と、その背後にある遺伝的要因との関連を解析することで、SRに関与する遺伝的基盤の全体像の解明に挑戦した。

若年日本人429人を対象に、アルコール摂取後の反応を経時的に評価

健常な日本人の若年成人429人を対象として、SRの時間依存的変化を定量的に評価した。身体的な感覚の変化などを評価する「BSS」「BAES」「SHAS」という3種類の評価尺度を用い、それぞれに含まれる計11の評価項目(サブスケール)を静脈内アルコールクランプ法(点滴によって血中のアルコール濃度を一定に保つ方法)によるアルコール投与後30分ごとに測定した。

アルコール摂取後のSRは3つの評価尺度クラスターに分類可能

その結果、多くの項目のスコア(数値が大きいほど、各項目の程度が強いことを示す)が投与30分後にピークを示し、一部は150分後にピークを示した。このデータに基づき、30分および150分時点のスコアを代表的な反応指標として用いた。

各サブスケールの時系列データを階層的クラスタリングと主成分分析(PCA)で解析したところ、サブスケールは3つの評価尺度クラスターに分類された。この分類は複数の手法で再現性が確認され、いずれの時点でも一貫していた。

参加者クラスターと評価尺度クラスターの間で強い対応関係を確認

同様のアプローチにより参加者を分類した結果、3つの明確な参加者クラスターが同定され、それぞれが特定の評価尺度クラスターと対応関係を示した。具体的には、クラスター1に属する参加者は評価尺度クラスター1で最も高いスコアを示し、クラスター2の参加者は評価尺度クラスター3、クラスター3の参加者は評価尺度クラスター2において、それぞれ特徴的な傾向を示した。このような対応関係は、SRにおける個人差が、参加者側と評価尺度側の双方で共通する構造的なパターンを持つことを示唆している。

参加者クラスター1が最も強い反応・2、3の順に減弱

さらに、アルコール投与後30分時点におけるサブスケールスコアを用いて各参加者クラスターの反応を比較したところ、クラスター間で統計的に有意な差が認められた。特に、クラスター1は最も強い反応を示し、クラスター2、クラスター3の順に反応の程度が弱くなる傾向が確認された。同様に、評価尺度クラスター側でも参加者クラスター1が、3つの参加者クラスターの中でも最も顕著な反応の仕方を示し、続いて参加者クラスター2、参加者クラスター3という順になった。

これらの結果は、アルコールに対するSRが、参加者の個人差および評価尺度の構造の双方において、3つの異なるタイプに整理可能であることを示しており、日本人集団におけるアルコール応答の生物学的特徴を理解する上で新たな知見を提供するものだ。

ALDH2・ADH1Bアリルはともに評価尺度クラスター1に影響、時系列には違いも

次に、アルコール代謝に関与する代表的な遺伝子であるALDH2およびADH1Bの変異が、SRに与える影響を評価した。

この結果、ALDH2*2保有者では、特に評価尺度クラスター1で強い関連が見られ、時間依存的に変化することが確認された。ADH1Bについては、評価尺度クラスター2では関連が弱く、評価尺度クラスター3では遅延して関連が現れる傾向が示された。

また、参加者クラスター間での遺伝子型頻度にも有意な差が認められ、ADH1B*2は参加者クラスター2で最も多く、ALDH2*2は参加者クラスター2と3で高頻度だった。さらに、ALDH2とADH1Bのアリルは、評価尺度クラスター1に最も強く影響し、時系列的に効果が変動することも確認された。

GCKR、ALDH1B1、ALDH1A1も異なるパターンでアルコール反応性に関与

GCKR(rs1260326)、ALDH1B1(rs3043)、ALDH1A1(rs8187929)といった他の飲酒関連遺伝子の寄与も評価したところ、これら3遺伝子は、それぞれ異なるクラスターに対して異なる関与パターンを示した。特に、ALDH1B1の影響は評価尺度クラスター1で顕著だった。GCKRについては、アルコール代謝そのものへの関与も示唆された。

ALDH2は初期、ADH1Bは遅延して影響

5つのアルコール関連遺伝子(ALDH2、ADH1B、ALDH1B1、ALDH1A1、GCKR)による分散説明率を評価したところ、ALDH2は30分時点の評価尺度クラスター1で最大30%の分散を説明した。ADH1Bは150分時点で最大1.7%の寄与を示した。一方、その他の3遺伝子の寄与は限定的だった。また、ALDH2の影響は初期フェーズで強く、ADH1Bは遅れて影響を示すという、時間依存的な寄与が明らかになった。

SRに対する遺伝的影響は特定の遺伝子座に強く依存

最後に、5つの既知領域を除いた全ゲノム領域を対象とするポリジェニックスコアを計算したが、どのサブスケールにおいても有意な関連は認められなかった。このことから、SRに対する遺伝的影響は、ALDH2やADH1Bを含む限られた遺伝子座に強く依存している可能性が示唆された。

アルコール関連疾患リスクの早期特定、予防介入の基盤となる成果

今回の研究では、アルコール摂取に対する多様な主観的反応(SR)を評価し、反応項目および個人を統計学的に分類することで、アルコール反応性を3つの異なるクラスターに分類できることを初めて示した。各クラスターは、アルコール代謝や消費に関与する複数の遺伝子の影響を受けており、その寄与のタイミングや程度にはクラスターごとの違いが認められた。これらの知見は、薬理作用とアルコール関連遺伝子座との関連を、時間的変化を踏まえて大規模かつ遺伝的に均質な日本人若年成人集団で包括的に評価することで得られたものだ。

「今後、本研究で示された反応指標および個人の3タイプ分類は、アルコール反応性の客観的評価法としての有用性が期待され、アルコール関連疾患のリスクが高い個人の早期特定や、予防的介入の実装に向けた基盤となる可能性がある」と、研究グループは述べている。(QLifePro編集部)

 

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