乳がん患者の悩み、既存のサポート体制だけでの解決は困難
岡山大学は11月26日、乳がん患者の心理的サポートに特化したAIチャットボット(AIピアサポーター)を開発したと発表した。この研究は、同大学術研究院医歯薬学域(医)医療情報化診療支援技術開発講座の長谷井嬢教授(特任)(整形外科)、岡山大学病院乳腺・内分泌外科の枝園忠彦教授、藤原由樹医員らの研究グループによるもの。
乳がんは日本人女性で最も罹患率の高いがんであり、30代の若年層から高齢者まで非常に幅広い年齢層が罹患する特徴がある。そのため、患者が抱える悩みも、治療の副作用だけでなく、妊孕性、仕事、育児、介護など、ライフステージによって極めて多様である。そのため、人的なピアサポートは、こうした多様な世代と、その悩みにきめ細かく対応し続けるには限界がある。さらに、患者の中心である40~50代は、家庭や社会で多くの役割を担い多忙なため、日中に相談時間を確保できず、夜間に一人で不安を抱え込むケースが多いことも課題であった。QOLを低下させるこれらの要因を、既存のサポート体制だけで解決するのは困難である。
乳腺専門医が設計した乳がん経験者のAIキャラクターが対話
この「悩みの多様性」と「時間の制約」という課題を解決するため、研究グループが持つ患者の心に寄り添うAIメンタルケア技術を基盤とし、乳がん患者に特化したAIチャットボット(AIピアサポーター)を開発した。同AIの最大の特徴は、乳腺専門医が多くの患者の経験知見を集約して慎重に設計した「乳がん経験者」のペルソナ(AIキャラクター)が、ピアサポーターとして対話に応じる点である。さらに、AIは、ピアサポーター養成のための研修内容を学習しており、医学的な情報提供は行わず、あくまでピアサポーターとしての働きに特化している。これにより、患者が時間や場所を問わず、気兼ねなく悩みや不安を吐き出せる心理的安全性を確保している。
乳がん治療を受ける患者対象にAIピアサポーターの効果検証予定
今後、このAIピアサポーターの効果を検証するために、岡山大学病院で乳がん治療を受ける患者を対象に、AIボットの12週間(約3か月間)利用を予定している。
24時間いつでも患者の不安や孤独感に寄り添えるAI、既存のケア補完に期待
同研究は、AIによる心理サポートの実用性を検証する重要な第一歩である。従来の医療サポートが時間や場所の制約を受ける中、24時間いつでも患者の不安や孤独感に寄り添えるAIは、既存のケアを補完する新しい支援モデルの構築につながる。患者が安心して治療に向き合える環境を整備し、将来のがん医療におけるQOL向上に貢献することを目指す、と研究グループは述べている。
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・岡山大学 プレスリリース


