医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > COVID-19感染のエリートアスリート、14日以内の競技復帰が9割-JSCほか

COVID-19感染のエリートアスリート、14日以内の競技復帰が9割-JSCほか

読了時間:約 2分37秒
2025年12月08日 AM09:30

日本のエリートアスリートの感染後の競技復帰基準、データ根拠が不十分

日本スポーツ振興センター(JSC)は11月25日、日本のエリートアスリート994人を対象に、COVID-19罹患歴と競技復帰日数を後方視的に分析したと発表した。この研究は、同センターハイパフォーマンススポーツセンター国立スポーツ科学センタースポーツ医学研究部門の福嶋一剛副主任研究員、筑波大学体育系の中田由夫教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「BMJ Open Sport & Exercise Medicine」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

COVID-19はアスリートの運動パフォーマンスに大きな影響を与え、急性期症状以外に慢性的な運動時症状を及ぼしパフォーマンス低下がみられることがあり、心理的ストレスが原因でメンタルヘルス障害につながることもある。特にエリートアスリートは大会出場のための検査実施や国際移動が必要となり、一般人口とは異なる環境に曝されるため、感染状況や安全な競技復帰までの期間が異なる可能性がある。その一方で、競技復帰基準は専門家の意見に依存し、データに基づく根拠が十分ではない。研究グループは、日本のエリートアスリートにおける感染の頻度・分布と競技復帰の実態を明らかにすることが必要と考え、今回の検討を行った。

感染の88%はオミクロン株主流の第6波以降に集中

研究では、JSCが設置するハイパフォーマンススポーツセンター国立スポーツ科学センターのメディカルチェック記録(2022年6月~2023年5月)を後方視的に解析。医師の診察でCOVID-19の既往、症状、発症から競技復帰までの日数を確認した。対象は994人(男性517人、女性477人、平均22.9±4.8歳)で、そのうち456人に罹患歴があり、延べ492回の感染が記録された。感染の88%は第6波(オミクロン株が主要株)以降に集中し、特に第6波(オミクロンBA.1/BA.2優勢期)が最多であった。屋内競技アスリートは屋外競技アスリートより有意にCOVID-19罹患割合が高く(306件vs.150件)、競技別ではバドミントン16%、バレーボール10%、ハンドボール7%で相対的に多い傾向であった。

発症から競技復帰まで約9割が14日以内、28日以上の長期離脱は4%

症状は発熱80%、咽頭痛58%、咳嗽44%が中心で、無症状は罹患アスリート全体の11%であった。競技復帰日数の中央値〔四分位範囲〕は10〔7-14〕日で、約9割が14日以内に復帰し、15~21日が5%、22~28日は0%、28日を超える長期離脱は4%であった。

変異株の違いと行動制限の有無が復帰期間に影響

屋内競技アスリートで罹患が多い結果は先行研究と同様の結果であった。今回の研究で感染の正確なタイミングの特定はできなかったが、エアロゾル感染・飛沫感染・接触感染が主なCOVID-19の感染経路であることを考慮すると、近接距離での運動が影響した可能性が示唆された。長期離脱の頻度はオミクロン株出現前である第1波から第5波で15%、第6波から第8波で3%と有意に低下し、変異株の違いが復帰期間に影響した可能性が示唆された。また、同感染症感染拡大を防止するため緊急事態宣言が発出されたが、第6波以降はそのような行動制限の要請は行われなかったことも影響していると考えられた。

以上より、エリートアスリートでは、屋内環境や近接トレーニングといった競技特性の影響を受けつつも、多くが短期間で復帰できている実態が明らかになった。

競技種目・練習環境に応じた感染管理、段階的な競技復帰プログラムの最適化が必要

今回の研究は、エリートアスリートに感染を起こしたCOVID-19の実態を示す貴重な知見であり、今後、長期的な転機や罹患後外傷リスク情報と統合し安全な復帰判断や感染対策の検討に役立つと期待される。

「競技種目や練習環境に応じた感染管理と、段階的な競技復帰プログラムの最適化が必要である。今後は前向きデータ収集と詳細な臨床指標を統合し、ワクチン接種状況や基礎疾患も考慮した個別化支援を検証する。長期的な転機や罹患後の外傷リスク評価にも繋がると期待される」と、研究グループは述べている。(QLifePro編集部)

 

同じカテゴリーの記事 医療

  • COVID-19感染のエリートアスリート、14日以内の競技復帰が9割-JSCほか
  • レカネマブ治療、CSF-ptau181とARIAリスク・認知機能低下の関連判明-金沢大
  • 障害者の包括的な社会参加評価のWHO指標、日本語版を開発-筑波大
  • 22q11.2欠失症候群、医療の縦割り構造で包括的治療困難の実態-東大ほか
  • 重症心不全の回復予測因子を同定、IDH2/POSTN比が新たな指標に-東大ほか