タウマーカーの数値と、治療後のARIA発現・認知機能推移との関連は不明だった
金沢大学は11月26日、レカネマブ治療を受けた早期アルツハイマー病(AD)患者100例のデータを解析した結果、タウマーカー低値が安全性・有効性の向上に関連することを明らかにしたと発表した。この研究は、同大医薬保健研究域医学系の小野賢二郎教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Alzheimer’s Research & Therapy」のオンライン版に掲載されている。

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AD患者の脳内には、アミロイドβという物質が溜まってできる老人斑といわれる構造物や、異常な神経線維のもつれ(タウタンパクが異常リン酸化して生じる神経原線維変化)、神経細胞の消失といった変化が見られ、これらの変化が長い時間をかけて進行する。
レカネマブは早期ADに対する治療薬で、アミロイドβ凝集体の中でも、神経毒性が特に高いとされるアミロイドβプロトフィブリルに選択的に結合する抗体。日本では、2023年より医療現場で使用されている。レカネマブの副作用としてアミロイド関連画像異常(amyloid related imaging abnormalities:ARIA)が問題となっているが、ARIA発現を予測するバイオマーカーは、これまで十分明らかとなっていなかった。
また、レカネマブは脳内タウ蓄積が少ない患者で、治療効果が高いことが第3相臨床試験のサブグループ解析で示されているが、医療現場では脳内タウ蓄積を調べるタウPETは施行できず、治療効果予測ができる検査法の開発が求められていた。
そこで今回の研究では、レカネマブ治療を実施した100例の患者データを解析し、患者属性やApolipoprotein E(APOE)ε4保有数、高血圧症併存の有無、治療前の頭部MRI所見、アミロイドマーカーおよびタウマーカーの数値と、治療後のARIA発現や認知機能の推移との関連について解析を行った。
CSF-ptau181高値群、レカネマブ治療6/12か月後のMMSEスコアが有意に悪化
ARIA発現群では、非発現群に比べて有意にタウマーカーである脳脊髄液中リン酸化タウ181(Cerebrospinal fluid phosphorylated tau 181: CSF-ptau181)濃度が高値だった。ROC解析の結果、CSF-ptau181のカットオフを78.6 pg/mlとしたとき感度83%、特異度58%、AUC 0.68であり、治療前のCSF-ptau181値が78.6 pg/ml以上では、ARIA発現のオッズ比がおよそ7.8倍だった。さらに、CSF-ptau181値が78.6 pg/ml以上のCSF-ptau181高値群は、CSF-ptau181低値群に比してレカネマブ治療6か月後、12か月後のミニ・メンタルステート検査(MMSE)のスコアが有意に悪化していた。
これらの知見から、レカネマブ治療はタウ蓄積が少ないAD患者で安全性・有効性が高いことが示唆された。
抗アミロイド抗体薬の治療効果を予測するバイオマーカーの開発に期待
今回の研究により、レカネマブ治療開始前にCSF-ptau181濃度を測定することで、治療の安全性・有効性を予測する指標として活用できる可能性があることが判明した。
「CSF-ptau181濃度と高い相関を示す血液バイオマーカーを開発できれば、非侵襲的に治療の安全性や有効性を予測でき、副作用リスクの層別化や治療効果が期待できる患者の選別に役立つ。これにより、個別化医療の推進に大きく貢献することが期待される」と、研究グループは述べている。
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