脳全体における一日の神経活動リズムを捉えることは困難だった
東京大学は11月14日、組織透明化技術「CUBIC」を用いてマウス脳全体の神経活動を解析し、脳の約8割の領域で一日周期の活動リズムが存在することを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科の上田泰己教授(兼:久留米大学特別招聘教授)、山下勝成特別研究学生(大阪大学大学院医学系研究科博士課程)、木下福章特任研究員、久留米大学分子生命科学研究所の山田陸裕准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Science」のオンライン版に掲載されている。

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ヒトの脳は、睡眠や覚醒、記憶、感情など、さまざまな機能を日々の時間の流れに合わせて調整している。これまでの研究で、脳の視交叉上核と呼ばれる小さな領域が体内時計を司る中枢であることが知られており、こうした一部の脳領域では、一日の周期に沿った神経活動のリズムが報告されてきた。
神経活動の観察には、電気的な記録や遺伝子発現の測定などが用いられてきたが、観察できる範囲が空間的に限られており、脳全体として一日の中でどのように活動が変化するのかを捉えることはできていなかった。また、脳の自発的な神経活動は、わずかな環境の違いや外部からの刺激に左右されやすく、再現性の高い条件下で一日の変化を正確に測定することは容易ではなかった。
マウスの脳全体を透明化し、2日間の神経活動を3次元で評価
研究グループは、臓器を透明にして内部構造を3次元的に観察できる組織透明化技術「CUBIC」と、神経の活動を可視化するc-Fos免疫染色を用いて、恒暗条件下で2日間にわたって時系列的に採取したマウス脳144サンプルを解析した。環境の影響を最小限に抑える厳密な条件設定と、画像解析やリズム解析の高精度な手法を組み合わせることで、これまで困難だった自発的な神経活動の時系列評価を実現した。
視交叉上核以外の脳領域でも24時間周期の活動リズム、全体の約8割で確認
解析の結果、視交叉上核だけでなく、脳を構成する642領域のうち約8割(508領域)で、およそ24時間周期の活動リズムが見られることを見いだした。夜行性であるマウスでは、体内時計上の夜(活動期)の後半にピークを示す領域が多い一方で、視覚や睡眠に関わる領域では、体内時計上の昼(非活動期)にピークが見られた。特に、記憶に関わる海馬では、CA1領域と歯状回が入れ替わるように異なるタイミングで活動しており、一連の機能を担う部位の中でも、役割に応じたリズムの分担があることが示唆された。
さらに、ボクセル(3次元画像を構成する最小単位)単位のリズム解析により、一つの領域の内部にも、異なる活動リズムが存在することが判明した。
全脳の神経活動パターンから「脳時刻」を推定可能
加えて、脳全体の活動パターンから「今が一日のどの時刻にあたるか(脳時刻)」を推定できることも明らかになった。この結果は、脳の状態を測る新しい指標として、全脳活動パターンを活用できる可能性を示している。
今回の研究で得られたデータは、3次元の全脳リズムアトラスとしてWeb上に公開しており、誰でも自由にアクセスできる。「このデータベースは、さまざまな脳領域の機能研究の基盤となるほか、脳の働きを時間軸から理解する研究や、時間帯に応じた薬の効果解析などへの応用が期待される」と、研究グループは述べている。
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