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子どもの希死念慮・自殺企図増加、神経症やせ症も増加で高止まり-成育医療センター

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2025年12月15日 AM09:20

コロナ禍以降、「子どもの心」の状態はどのように変化した?

国立成育医療研究センターは11月27日、極端な食事制限や食後の吐き出し、過剰な運動などで、正常体重より明らかに低い状態になる摂食障害「神経性やせ症」の初診外来患者数と新入院患者数、希死念慮・自殺企図の初診外来患者数と新入院患者数などを調査し、その結果を発表した。この研究は、同センターが中央拠点病院を務める「こどもの心の診療ネットワーク事業」によるもの。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

こどもの心の診療ネットワーク事業は、こども家庭庁の事業として、子どもたちの心のケアのため、都道府県などの地方自治体が主体となり、地域の病院、児童相談所、保健所、発達障害者支援センター、療育施設、福祉施設、学校などの教育機関、警察などが連携している。その活動の一環として、地域でのより良い診療のため、子どもの心を専門的に診療できる医師や専門職の育成、地域住民に向けた子どもの心の問題に関する正しい知識の普及活動も実施している。さらに、地域内のみならず、事業に参加している自治体間の連携強化も図り、互いに抱える問題や実施事業に関する情報共有も盛んに行っている。

新型コロナウイルス感染症の流行およびその影響の長期化は、子どもたちの生活を大きく変化させ、心にもさまざまな影響を及ぼしている。「こどもの心の診療ネットワーク事業」においても、事業に参加している複数の拠点病院の医師から、コロナ禍に入って以降、神経性やせ症で入院する子どもや、抑うつや不安を訴える子どもが増えているといった声が上がっていた。また、厚生労働省の「自殺の統計」によると、高校生の自殺者数が増加していることもわかった。そこで、コロナ禍~コロナ後で子どもの心がどのように変化しているのか、子どもの心の診療の実態を調査した。

神経性やせ症、希死念慮・自殺企図のある20歳未満の初診外来・新入院患者を調査

研究では「こどもの心の診療ネットワーク事業」に参加している機関および、オブザーバー協力機関の全国31病院(32診療科)を対象に、2019年4月1日~2025年3月31日の間に受診した、神経性やせ症、希死念慮・自殺企図があった20歳未満の初診外来患者および、新入院患者の人数を調査するアンケートを実施した。

なお、神経性やせ症、希死念慮・自殺企図の各項目について6年度分のデータが揃っていない機関のデータ、神経性やせ症と神経性過食症を合算している・希死念慮と自殺企図を合算している機関のデータは除外したため、2021~2023年度に配信した調査結果と患者数や有効回答施設数が異なる項目がある。

神経性やせ症の初診外来患者数はコロナ前の約1.5倍、入院患者も約1.4倍

調査の結果、2021年度にコロナ前の約1.6倍まで増加していた神経性やせ症の初診外来患者数は、2022年度に一度は減少に転じたものの、2023年度には再び増加傾向を示し、2024年度はコロナ前の約1.5倍(203人→297人)と高止まりしていることが明らかになった。男女内訳を見ると、コロナ前は神経性やせ症の初診外来患者数のうち、男性は8.9%(203人中18人)だったが、2024年度には16.1%(297人中48人)を占め、人数もコロナ前の約2.7倍と増加していた。

また、神経性やせ症の新入院患者数は、2022年度にコロナ前の約1.6倍まで増加した後、2023、2024年度は徐々に減少しているものの、2024年度もコロナ前の約1.4倍(121人→168人)と依然として患者数が多いことが明らかになった。

神経性やせ症の病床数は2020年度以降継続して不足、特に小児は特定の病院に集中

なお、神経性やせ症の患者のための病床数は、2020年度以降継続して不足している。特に女性の神経性やせ症の病床充足率(現時点で神経性やせ症で入院している患者数/神経性やせ症の入院治療のために利用できる病床数×100)は、2024年度は130%の病院もあった。子どもの神経性やせ症を治療できる医療機関が少ないこともあり、特定の病院に入院患者が集中していることが推測された。

希死念慮は約1.5倍・自殺企図は2倍以上、特に女性の増加率「高」

「希死念慮」は、初診外来患者数が2023年度まで毎年増加傾向にあり、2023年度はコロナ前と比べて約1.8倍に増加した。2024年度はやや減少したものの、コロナ前と比べて約1.5倍(110人→166人)と依然として患者数が多いことが明らかになった。新入院患者数も、2022年度にコロナ前と比べて約1.9倍まで増加し、2024年度も約1.8倍(62人→111人)と高止まりしていた。

「自殺企図」については、2019年度と2024年度を比較すると、初診外来患者数は約2.3倍(36人→82人)、新入院患者数は約2.1倍(40人→85人)と、いずれもコロナ前の2倍以上に増加していた。特に女性の増加率が高く、初診外来患者数は約2.5倍(24人→61人)、新入院患者数は約2.2倍(33人→72人)と増加していた。

希死念慮・自殺企図ともに女性の割合が高いことが判明

なお、患者数を男女で比較したところ、希死念慮、自殺企図ともに、女性の割合が高くなっていた。2024年度は、初診外来患者数では、希死念慮が女性72.9%(166人中121人)、自殺企図が女性74.4%(82人中61人)。新入院患者数では、希死念慮が女性82.0%(111人中91人)、自殺企図が女性84.7%(85人中72人)であった。

子どもたちのメンタルヘルス向上に対するさらなる支援が早急に必要

今回の研究により、新型コロナウイルス感染症が5類に移行した後もなお、神経性やせ症の患者数が高止まりしている状況が明らかになった。同調査は実態調査であるため、増加の原因を明らかにすることはできないが、子どもの神経性やせ症を診察できる医療機関の拡充、入院病床数を確保することが求められる。また、希死念慮・自殺企図の患者数も高止まりしており、国の調査でも自殺者数が増加していることから、何らかのリスクを抱えている子どもたちへの自殺予防に関する対策および支援が早急に必要と考えられる。

「コロナ禍は過去を指す言葉となったが、コロナ禍の長期化による子どもたちの学校環境(休校、行事の中止、黙食、マスク着用など)、生活環境(親の就労問題、貧困、DVや虐待、SNSなど)、メンタルヘルスへの影響は、今なお残っていると考えられる。さらに個人差があることも考慮すると、今後も周囲の大人が子どもたちの心の声に耳を傾け、身体の変化に気づき、子どもたちの生活を注視していくことが重要だ。家庭・学校・行政・医療機関・福祉機関などが連携して、子どもたちのメンタルヘルスの向上に対するさらなる支援を早急に考える必要があると思われる」と、研究グループは述べている。(QLifePro編集部)

 

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