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非侵襲的な人工神経接続システム、脊髄損傷者の歩行機能回復に成功-都医学研ほか

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2025年12月09日 AM09:30

脊髄損傷者に対する運動機能再建技術、侵襲的な方法に限られていた

東京都医学総合研究所は11月26日、人工神経接続システムを用いて、手の筋肉の動きで操作できる非侵襲的な脊髄刺激法を用いることで、脊髄損傷で歩けなくなった人が再び自分の意思で脚を動かせるようにすることに成功したと発表した。この研究は、同研究所脳機能再建プロジェクトの田添歳樹主席研究員と西村幸男プロジェクトリーダー(前職:生理学研究所准教授、兼職:新潟大学客員教授)、相模女子大学の笹田周作教授(前職:生理学研究所博士研究員)、千葉県千葉リハビリテーションセンターの村山尊司リハビリテーション治療部長、福島県立医科大学の宇川義一名誉教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Brain」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
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脊髄が損傷すると、脳から脚を動かす命令がうまく伝わらなくなり、下半身麻痺(対麻痺)になる。しかし、脚の筋を動かす神経の集まった脊髄の部分(腰髄)に損傷がなければ、脳とその部分を再びつなげることで、麻痺した脚を自分の意思で動かせる可能性がある。そのための最も効果的な方法の一つが、「コンピュータ・インターフェイス」という装置を使って脳の意思を読み取って電気刺激として脊髄に伝えるものである。コンピュータを介して、損傷した部分を迂回し、脳の命令を脚の神経回路に届ける。動物実験や人を対象とした臨床研究では、この技術によって腕や脚の運動機能を再建できることを同グループや他国のグループが報告している。ただし、これまでの技術は脳や脊髄に電極を埋め込む外科手術が必要な「侵襲的な方法」に限られており、広く実用化するには課題があった。そのため、より多くの人に使えるような「手術の必要のない(非侵襲的な)人工神経接続の方法」が強く求められていた。

人工神経接続システム、手の筋収縮調整で麻痺脚の運動制御に成功

研究グループは、運動指令を含む生体信号を、コンピュータを介して、損傷していない神経に指令を送ることを実現する人工神経接続システムを開発している。今回の研究は、脊髄損傷の受傷後半年または1年以上が経過し、通常のリハビリテーション法では機能回復が見込まれない慢性期の人を対象に行われた。脊髄損傷の影響のない手の筋肉の信号(筋電図)を皮膚上に貼り付けた無線の筋電図センサーで記録し、コンピュータ・インターフェイスを介して磁気刺激装置をトリガするパルス信号に変換した。磁気刺激は、コイルに発生する磁場変化によって体表面から痛みなく脳・脊髄・末梢神経・筋肉などを活動させられる技術である。今回は、脚を動かす神経の集まった腰髄を狙って腰の位置を背中側から磁気刺激を行った。測定は、研究対象者がベッド上で横向きの姿勢で横たわり、両脚を天井から吊るした足置きに固定された状態で行われた。

対象者は、麻痺のため自力では両脚を動かすことが困難であったが、手の筋収縮をリズミカルに繰り返すと、コンピュータ・インターフェイスを介してこれに連動した磁気刺激が腰髄の神経の働きを促すことで、左右の脚がまるで歩いている時のようなステップ運動を開始することがわかった。また、対象者は手の筋収縮の強さやリズムを調整することで、磁気刺激により生み出されるステップ運動の歩幅やリズムをコントロールすることが可能であった。つまり、外科手術を必要としない方法でも、コンピュータ・インターフェイスが脳からの指令を腰髄へ伝える「人工神経迂回路」として機能し、麻痺の残る両脚の運動をコントロールできることが証明されたことになる。

システムを介した磁気刺激の繰り返しにより、本来の運動機能が改善

さらに、今回の研究では、人工神経接続システムを介した磁気刺激によるステップ運動を繰り返すことで脚の運動機能が高まることも明らかとなった。脊髄の損傷が磁気刺激を与える腰髄よりも高い位置にある頸髄損傷や胸髄損傷の人では、人工神経接続システムにより生み出されるステップ運動が測定を繰り返すごとに大きくなっていくことが示された。また、それだけでなく、測定前は自力ではわずかにしか動かすことのできなかった両脚が、測定を繰り返した後では、人工神経接続システムが無い状態でも大きく動かせるように本来の運動機能が改善していることが明らかとなった。この本来の下肢運動機能の改善は、測定前に少しでも脚を動かすことのできた、いわゆる「不全麻痺」の人に限られていたことから、人工神経接続システムを介した腰髄への磁気刺激は、脊髄損傷後もわずかに残った脳と腰髄を繋ぐ神経の働きを強化することで、運動機能の改善を導いた可能性がある。

負担が少なく安全性が高い、新しいリハビリテーション法となる可能性

今回の研究で最も重要な成果は、手術を必要としない方法で損傷されていない脊髄を刺激することによって、脊髄損傷により慢性的に麻痺の残った両脚の歩行動作のコントロールが回復したことである。

「この方法では、神経の働きを模倣した「コンピュータ・インターフェイス」が使われた。これまでの同様の方法では、外科手術で電極を体内に埋め込む必要があったが、今回使われた磁気による脊髄刺激は、身体に負担が少なく、安全性が高いと考えられている。そのため、本研究で用いられた方法は、外科手術ができない人やそれを望まない人にも適用できる、新しい非侵襲的なリハビリテーション法となる可能性が示されている」と、研究グループは述べている。(QLifePro編集部)

 

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