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メリンジョ由来の「グネチンC」、マウス実験で肥満・2型糖尿病を改善-熊本大ほか

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2025年12月11日 AM09:30

2型糖尿病、多臓器に作用する治療戦略が求められている

熊本大学は11月26日、インドネシア原産の植物「メリンジョ(Gnetum gnemon)」の種子から得られるポリフェノール「グネチンC」に、肥満および2型糖尿病の改善作用があることをマウスモデルで明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院生命科学研究部附属グローバル天然物科学研究センター(薬学系)の首藤剛准教授および大学院薬学教育部博士課程の岸本朋樹氏と、株式会社山田養蜂場との共同研究によるもの。研究成果は、「Scientific Reports」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

2型糖尿病は世界の糖尿病患者の約90%を占め、その主な原因は食生活の乱れや運動不足による肥満の進行とされている。特に近年は、脂肪組織と肝臓の機能異常による臓器間の代謝連携障害が、糖尿病や脂肪肝(NAFLD)の主要な病態として注目されている。しかし、現行の薬物療法は単一の臓器や経路に対する作用が中心で、副作用やコストの面でも課題が多く、より多臓器に作用し、安全性の高い新たな治療選択肢の開発が求められている。

アディポネクチン多量体化を促す「グネチンC」に着目、代謝改善メカニズムを検討

現在、同センターでは、文部科学省「地域イノベーション・エコシステム形成プログラム事業」の一つである「有用植物×創薬システムインテグレーション拠点推進事業(UpRod)」を推進し、世界各地の有用植物や天然物の成分単離・同定と薬理活性評価を行っている。

研究グループはこれまで、インドネシア原産の食用植物「メリンジョ(Gnetum gnemon L.)」に含まれるポリフェノール類に注目し、その種子抽出物(MSE)が脂肪細胞でアディポネクチン(APN)を多量体化させ、インスリン感受性を改善する作用を持つことを発見してきた。特に、APN多量体化に関与する酵素DsbA-L(Disulfide-bond A oxidoreductase-like protein)の発現がカギを握ることをマウス2型糖尿病モデルで明らかにしてきた。

そこで研究グループは、MSEの主成分候補として浮上していたグネチンC(Gnetin C)に着目。グネチンCはレスベラトロールの二量体であり、通常のレスベラトロールよりも体内滞留性が高く、安定して作用することから、MSEの主要な活性成分である可能性が想定される。今回の研究では、グネチンCのマウス2型糖尿病モデルに対する投与試験を実施し、そのメカニズムの解明を行った。

グネチンC投与でマウスモデルの肥満・高血糖が改善、脂肪代謝に広く作用

研究チームは、まず、遺伝的背景をそろえたマウスに高脂肪食(HFD)を与え、肥満・高血糖・脂肪肝といったメタボリックシンドローム様病態を誘導した。その上で、グネチンCを4週間経口投与した結果、体重増加が有意に抑制され、空腹時血糖値も顕著に低下した。さらに、白色脂肪組織の蓄積や肝臓への脂肪蓄積も改善され、グネチンCが脂肪代謝全体に広く作用することが示された。

脂肪組織でDsbA-Lを誘導、血中の高分子量アディポネクチンが増加

この代謝改善効果のメカニズムを詳細に解析したところ、グネチンCは2つの主要な臓器、すなわち脂肪組織と肝臓において異なる分子経路を同時に活性化し、それらが協調して作用することがわかった。

まず、脂肪組織では、グネチンCが核内受容体PPARγ(ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体γ)を刺激し、その下流でDsbA-Lという酵素の発現を誘導した。DsbA-Lは、脂肪細胞が分泌する善玉ホルモンであるAPNの多量体化に関わる重要な酵素であり、これにより血中の高分子量アディポネクチン(HMW-APN)が増加した。このHMW-APNは、インスリン感受性の改善、脂肪燃焼の促進、抗炎症作用など多様な代謝保護効果を発揮することが知られている。

肝臓でサーチュイン1の活性を高め、FGF21の分泌を促進

一方、肝臓では、グネチンCがサーチュイン1(Sirt1)というNAD+依存性脱アセチル化酵素に直接結合し、その活性を高めることが明らかになった。Sirt1は、長寿遺伝子として知られる一方、代謝調節の中心因子でもあり、ここでは肝臓特異的ホルモンFGF21(Fibroblast Growth Factor 21)の転写と分泌を顕著に促進していた。FGF21は肝臓から血中へ分泌された後、脂肪細胞にあるFGFR1と補助因子βKlothoを介して再び脂肪組織に作用し、PPARγとDsbA-Lを間接的に刺激してAPN多量体化を増幅する可能性も示唆された。

このように、グネチンCは脂肪組織に直接作用してAPNを活性化すると同時に、肝臓に作用してFGF21を介した間接的な脂肪調節も促進するという、「直接+間接」二重のメカニズムをもって、臓器間のフィードフォワードループを形成し、全身の代謝機能を回復させることが明らかになった。

複数臓器を標的とする新しい治療候補分子となる可能性

今回の結果から、グネチンCは、従来の抗肥満・抗糖尿病薬が持つ「単一臓器・単一標的作用」ではなく、多臓器・多階層的な代謝制御ネットワークに働きかける新しい天然物由来の治療候補分子として高いポテンシャルを持つことが示された。

「なお、本研究条件下では、グネチンCによるSirt1活性化は、有名なポリフェノール成分であるレスベラトロールより強いことが確認された。さらに、グネチンCはメリンジョという古来より食用されてきた植物由来であることから、安全性の面でも優れた特性を持ち機能性食品やサプリメント、あるいは新規代謝性疾患治療薬としての実用化への期待が高まる」と、研究グループは述べている。(QLifePro編集部)

 

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