HPV感染後の治療に課題、治療目的のワクチン開発に挑戦
千葉大学医学部附属病院は11月13日、カチオン化ナノゲルを使用した鼻から投与する治療ワクチン(以下「経鼻治療ワクチン」)が、子宮頸がんの抑制に有効であることを明らかにしたと発表した。この研究は、同院ヒト粘膜ワクチン学部門の中橋理佳特任准教授と清野宏卓越教授(同部門長)らの研究グループによるもの。研究成果は、「Science Translational Medicine」に掲載されている。

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子宮頸がんの主な原因はヒトパピローマウイルス(HPV)への感染とされている。現在は、HPV感染を防ぐために注射型予防ワクチンが使われているが、その効果は感染する前に接種した場合に限られ、既に感染した人のがんの発症予防や治療には効果はない。また、現在行われている標準治療(外科的治療・放射線治療・薬物療法)では、後遺症や副作用、不妊・流産などによるQOL低下が課題となっている。そこで研究グループは、子宮頸がんの治療を目的とした経鼻ワクチンの開発に取り組んだ。
カチオン化ナノゲルを使用し、経鼻で子宮など生殖器粘膜に免疫細胞を誘導
研究では、ワクチンを経鼻接種することで誘導される粘膜帰巣経路を活用し、子宮などの生殖器粘膜にがん細胞を狙って攻撃できる免疫細胞を効率よく誘導した。ワクチンのデリバリーシステム(ワクチンの有効成分を免疫細胞に効率よく送り届け、その効果を最大化する技術)として、他の経鼻ワクチン研究でも効果が認められている「カチオン化ナノゲル」を使用した。免疫細胞ががん細胞を標的とするために必要なワクチン抗原には、発がんに強く関連するHPV16型のE7タンパク質を選択し、経鼻治療ワクチンの実用可能性を検証した。
マウスにおいて抗腫瘍効果を確認、非ヒト霊長類でも免疫誘導に成功
開発した経鼻治療ワクチンをマウスに投与したところ、マウスの子宮頸部および膣の組織において、HPV E7タンパク質を特異的に認識するCD4+T細胞およびCD8+T細胞(E7特異的T細胞)が誘導された。腫瘍を移植したマウスモデルにおいて、経鼻治療ワクチンによって誘導されたE7特異的T細胞が腫瘍内部に到達し、がん細胞を攻撃・排除することによる抗腫瘍効果が確認された。
また、ヒトにも応用可能なスプレー式の装置を用いて、非ヒト霊長類にこの経鼻治療ワクチンを投与したところ、生殖器の組織においてE7特異的T細胞が誘導されることがわかった。
経鼻治療ワクチンの臨床試験に向けた重要な成果
今回の成果は、経鼻治療ワクチンにより子宮頸がんを効果的に制御できる可能性を示した。
「近い将来に臨床試験を実施するための、前臨床段階におけるHPV経鼻治療ワクチンの有効性を示唆する重要な研究成果だと考えている」と、研究グループは述べている。
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