2021年死亡患者の遺族1万890人から回答を得て調査、前回結果と比較
国立がん研究センターは7月3日、人生の最終段階の医療および療養生活の質に関する調査結果(令和5年度調査)を発表した。今回の調査は、同センターがん対策研究所が、厚生労働省の委託事業として、2021年に死亡した患者の遺族を対象に行ったもの。人口動態統計(死亡票)情報をもとに、10の死因に該当する患者の遺族を対象に、郵送による自記式アンケートを実施した。人生の最終段階にある患者本人に直接調査を行うことは困難なため、遺族の視点を通じて医療や療養生活の実態を評価している。

画像はリリースより
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対象死因は、がん、心疾患、脳血管疾患、肺炎、腎不全、血管性などの認知症、アルツハイマー病、慢性閉塞性肺疾患、誤嚥性肺炎、老衰の10疾患。調査期間は2024年2~4月で、主な調査内容は「死亡場所で受けたケアの質」「医療に関する希望の話し合い」「新型コロナウイルス感染症の看取りへの影響」「死亡前1か月間の療養生活の質」についてである。2018~2019年度に実施した前回調査(2017~2018年死亡)と同一の調査項目を用いており、調査時点における社会的背景の違いなどに留意する必要はあるが、一定の比較が可能だとした。
調査票は2万6,969人に送付され、宛先不明などによる不達が5,570件であった。返送数は、回答拒否も含めて計1万3,352人(62.4%)で、有効回答数は1万890人(50.9%)であった。調査対象となった患者の疾患や年齢などの分布は母集団と概ね同様であり、平均死亡年齢は87.5歳であった。回答した遺族は主に配偶者または子で、性別は女性がやや多く、平均年齢は68.5歳であった。
療養場所の希望実現が進む一方、がん患者の苦痛緩和には依然課題
「死亡場所で受けたケアの質」では、医療者は患者のつらい症状にすみやかに対応していたとする回答は、全体で65~81%と比較的高い割合を示した。一方で、がん・心疾患・脳血管疾患では2019年調査(2017~2018年死亡)と比べて2~3ポイント減少がみられた。死亡場所での医療に対する満足度は65~81%で、がん・肺炎・腎不全では前回調査より2~5ポイントの増加があった。
「医療に関する希望の話し合い」では、患者と医師の間で最期の療養場所について話し合いがあったとする割合は、全体で23~53%であった。がんを含む5疾患では、前回より8~17ポイント増加した。
「新型コロナウイルス感染症の看取りへの影響」では、入院・入所していたため、面会制限により思うように面会できなかったとする遺族は61~82%であった。特にがんでは、面会制限を避けて自宅療養を選択した割合が11%と相対的にやや高くなっていた。
「死亡前1か月間の療養生活の質」では、からだの苦痛が少なかったと評価された割合は全体で37~53%であり、がんでは前回より4ポイント低下した。望んだ場所で過ごせた割合は37~60%で、がんを含む5疾患で前回より2~15ポイント増加した。
コロナ禍による医療提供体制の変化が影響
今回の調査により、人生の最終段階における医療や療養生活の質について、前回調査と比較し、医師との療養場所の話し合いや望んだ場所で過ごせた割合の増加が確認された。一方で、がん患者における苦痛の緩和では、依然として回答割合が低い水準にとどまっていることが示された。今回の調査時期は、新型コロナウイルス感染症の流行により、面会制限や行動制限、在宅療養の増加など、医療提供環境に大きな変化が生じた時期であった。こうした背景は、調査結果にも一定の影響を与えている可能性があり、前回調査との比較にあたっては、社会的文脈を踏まえた慎重な解釈が求められる。
「調査の継続実施に加え、最期の過ごし方に関する話し合いの実態把握や、レセプトなどの他のデータと連結した多面的な分析を進めることで、人生の最終段階における医療の質向上と政策立案への活用を図っていく予定だ」と、調査チームは述べている。
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・国立がん研究センター プレスリリース


