脳に近く全身炎症などに関連する口腔細菌叢、精神疾患との関係は未解明
東京科学大学は12月1日、統合失調症における口腔細菌叢と認知機能の関連を明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医歯学総合研究科 精神行動医科学分野の田村赳紘医学部内講師、杉原玄一准教授、髙橋英彦教授、ならびに同大口腔生命医科学分野/国際医工共創研究院 口腔科学センター 口腔全身健康部門の大杉勇人助教、片桐さやか教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Schizophrenia Bulletin」に掲載されている。

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統合失調症は、陽性症状(幻覚・妄想)、陰性症状(意欲低下・感情の平板化)、解体症状(思考や行動のまとまりの障害)、そして認知機能の低下を特徴とし、約100人に1人が発症する比較的頻度の高い精神疾患だ。中でも、持続的にみられる認知機能の低下は治療が特に難しく、日常生活や社会参加の大きな障壁となる。
近年、宿主-微生物相互作用が認知機能に影響し得ることが注目され、腸-脳軸に関する研究が進展してきた。一方で、口腔細菌叢は脳に近い解剖学的位置にあり、全身炎症や血管機能とも関連することから、その重要性が指摘されつつある。しかし精神疾患、とりわけ統合失調症の認知機能との関係については、これまで十分に検証されていなかった。
アルファ多様性が高いほど認知機能「高」、複数の代謝機能経路が全般的認知機能と関連
統合失調症患者68人と健常対照者32人の唾液由来16S rRNA遺伝子配列を解析したところ、口腔細菌叢の構成と多様性に群間差が認められた。具体的には、アルファ多様性(特に均等さの低下)、複数指標でのベータ多様性の差、および属レベルの差異を確認した。
統合失調症群内の解析では、アルファ多様性(特に豊富さ)が高いほど、全般的認知機能(FSIQ)が高い傾向(正の関連)が示された。一方、神経炎症の指標であるキヌレニン経路マーカーは、多様性・FSIQのいずれとも有意な関連を示さなかった。また、機能面では、PICRUSt2で推定した複数の代謝機能経路がFSIQと関連していた。
特にNeisseriaで、FSIQと関連した推定機能経路群と整合的に共変するシグナルを観察
さらに、アルファ多様性とこれらの機能経路との関連を検討したところ、均等さとの関連がより強く、豊富さと均等さの両方を反映する「Shannon多様性指標」と強く関連した機能経路は、(1)補因子およびビタミン代謝、(2)エネルギー代謝、(3)糖質代謝、(4)アミノ酸代謝、(5)糖鎖生合成・代謝の大きく5つのグループに分類された。
次に、統合失調症における口腔細菌叢の特徴と認知機能との関連の一部に、これらの機能経路が間接的に関与しているかを探索的媒介分析(教育年数・薬物療法に関連した累積抗コリン薬負荷[TSDD]で調整)により検証した。その結果、補因子/ビタミン代謝、エネルギー代謝、アミノ酸代謝、糖鎖生合成・代謝の4つのグループ(計5経路)で、アルファ多様性とFSIQの関連に対する有意な間接効果が示唆された。
さらに、属×機能経路(PICRUSt2推定)の共変動解析では、Neisseriaを含む11属が複数の代謝機能カテゴリーと関連していた。中でもNeisseriaは、先行コホートで注目された種レベル(N. sub flava)の上位分類に位置し、今回の解析においてもFSIQと関連した推定機能経路群と整合的に共変するシグナルが観察された。
統合失調症における認知機能の維持・低下抑制を目指した取り組みの実装に期待
統合失調症の認知機能低下は依然として治療が難しく、新たなアプローチの開発が求められている。同研究は低負担な唾液から得られるデータを用いて「口腔-(腸)-脳軸」の可能性を示した点に意義があり、日常的な口腔ケアやプレ/プロバイオティクス(菌活)などの介入が臨床的に有用であるかを科学的に検証していく動機付けを与えるものである。
「これにより、今回示された関連のメカニズム解明に向けた基礎研究やトランスレーショナル研究がさらに進展するとともに、統合失調症における認知機能の維持・低下抑制を目指した取り組みが、歯科・精神科・内科・地域保健の連携のもとで、より現場に実装しやすい形へと近づくことが期待される」と、研究グループは述べている。
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