サルコペニアには生理的老化以外の原因も、そのメカニズムは?
国立長寿医療研究センターは7月1日、テキストマイニング(定性データ分析によりトレンドを可視化)とバイオインフォマティクス(生命情報学)解析を組み合わせで、これまで不明瞭だったサルコペニアの病態メカニズムに関して、サルコペニアの生理的老化との相違点を明らかにしたと発表した。この研究は、同センター病院循環器内科部の上原敬尋氏、清水敦哉氏らの研究グループによるもの。研究成果は、「Geriatrics & Gerontology International」に掲載されている。

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サルコペニアは、加齢に伴う筋肉量と筋力低下を特徴とし、国際疾病分類にも登録されている。しかし、高齢者における筋肉量・筋力低下はすべて生理的な老化による低下ではなく、その他の原因が関係するとされている。
関連論文テキストマイニング+患者・健常高齢者の遺伝子発現データの比較解析
そこで今回の研究では、2万3,000件以上のサルコペニア関連論文のテキストマイニングと、サルコペニア患者と健常高齢者の遺伝子発現データの詳細な比較解析を組み合わせてアプローチを進めた。
テキストマイニング分析により、サルコペニア研究においてミトコンドリア、酸化ストレスなどが特に注目されている主要なメカニズムであることが示された。このようなトレンドを踏まえて、サルコペニアと老化に共通する遺伝子変化とサルコペニア特異的な病態メカニズムについて、さらに解析した。
老化によるサルコペニアは、IL-7に対する細胞応答が原因の可能性
その結果、サルコペニア患者と非サルコペニア高齢者の両方で共通して発現が変化している16個の遺伝子が特定された。これらの遺伝子は、免疫系と筋肉をつなぐ重要な分子である「インターロイキン-7(IL-7)に対する細胞応答」に関与していることが示唆された。すなわち、加齢によってIL-7関連経路の機能が影響を受けることが、サルコペニアと老化に共通するメカニズムである可能性がある。
老化とは別に、NOX経路の機能不全など酸化ストレス調節異常を伴う独立した疾患の可能性も
一方、サルコペニアで特異的に変化している1,361個の遺伝子の解析から、NADPHオキシダーゼ(NOX)関連遺伝子の亢進が確認された。これは、サルコペニアの病態が、酸化ストレス調節の異常、特にNOX関連経路の機能不全が伴う可能性を示唆している。
今回の研究は、サルコペニアが加齢による変化に加えて、酸化ストレス調節に関わる特定部位の機能変化に起因した独立した疾患である可能性を示唆している。特に、NOX関連遺伝子の関与という新たな知見は、サルコペニアの新しい診断マーカーや治療標的の開発に向けた貴重な手掛かりとなると考えられる。この研究の成果は、サルコペニアの複雑な病態を解明することに役立つのみならず、将来的な高齢者の筋肉量・筋力低下を効果的に予防・治療するための新たな介入戦略の開発に貢献すると期待される、と研究グループは述べている。
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・国立長寿医療研究センター プレスリリース