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認知症高齢者の「睡眠の質」改善に、光環境の調節が有効な可能性-北大ほか

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2025年07月29日 AM09:10

グループホーム入所の高齢認知症患者の「睡眠覚醒・概日リズム」の実態は不明

北海道大学は7月4日、認知症高齢者の睡眠覚醒パターンと概日リズムの特徴を解析し、その結果を発表した。この研究は、同大大学院教育学研究院の山仲勇二郎准教授、大学院教育学院の久保田直子氏(博士後期課程、研究当時)、株式会社フロンティアの増川直樹氏らの研究グループによるもの。研究成果は、「Biogerontology」にオンライン公開されている。


画像はリリースより
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日々の睡眠は、生物時計と恒常性維持機構という2つの仕組みにより制御されている。ヒトの生物時計中枢は、脳内の視交叉上核と呼ばれる部位に存在し、外界の明るい光(太陽光)に同調するとともに、視交叉上核外の脳部位や全身の末梢組織に時刻情報を伝達することによって、行動(睡眠覚醒)と生理機能を時間的に統合している。一方、恒常性維持機構は、起きている間に蓄積する睡眠圧がある閾値に達すると睡眠が開始し、十分な睡眠が取れると睡眠圧が低下し、再び覚醒する仕組みである。睡眠と覚醒のタイミングを制御する生物時計と睡眠の長さや深さを制御し得る恒常性維持機構の両者が協調することが、質の良い睡眠を取る上で重要であると考えられている。

認知症患者では、睡眠覚醒リズムの不規則化や概日リズムの変化が生じており、生物時計と恒常性維持機構の両方に問題が生じていると考えられている。認知症患者を対象とした先行研究では、断片的な睡眠や概日リズムの乱れは、日中の活動量の低下や光を浴びる機会が不足している可能性が指摘されていた。日本では高齢の認知症患者向けグループホームに関しては、過去10年間でその数が急増している(全国に約1万4,000施設、厚生労働省2024)。これらの施設に入所する認知症患者の多くは、規則的な就寝、起床、食事に従って生活し、施設内の温度や光といった環境についても入居者が快適に生活を送れるよう管理されていると考えられている。しかし、グループホームに入所している高齢の認知症患者の睡眠覚醒リズムと概日リズムの実態については研究が不足していた。

非接触型の加速度センサーで、70人の認知症患者の睡眠パターンと睡眠の質を解析

研究グループは今回、グループホームに入居している高齢の認知症患者の睡眠を評価するため、国内5施設(札幌市内2施設、前橋市内3施設)のグループホーム内のベッド下に設置された非接触型の加速度センサーにより測定されたベッド内での活動量データを用いて、70人の認知症患者の睡眠パターンと睡眠の質について解析を行った。睡眠パターンの解析は、連続する2週間の活動量データを視覚的に表示するアクトグラムと呼ばれる方法を用いて視覚化し、睡眠パターンの周期性を解析した。

また、睡眠の質は1分間ごとに測定した活動量データから睡眠と覚醒を判別可能なアルゴリズムを用いて、ベッド内での睡眠変数(入眠潜時、中途覚醒時間、総睡眠時間、睡眠効率)を算出した。さらに、7人の認知症高齢者を対象に、貼り付け型深部体温計を用いて24時間の深部体温リズムを測定する実験を2週間ごとに3回実施した。

深部体温リズムの解析は、コサイナー法を用いて行った。コサイナー法では、24時間の周期性の有無、深部体温リズムの最低値時刻、リズム振幅を算出した。概日リズムと睡眠覚醒リズム間の時間関係については、深部体温リズムの最低値時刻と睡眠覚醒リズムの起床時刻の時間差を指標として算出した。

認知症高齢者の睡眠覚醒リズムを3つのパターンに分類

睡眠パターンを解析した結果、「グループホーム施設内で設定された夜間の就寝(消灯)時間にのみ主睡眠がみられるタイプ(Type1、54.3%、38人)」「夜間の睡眠とは別に日中に規則的な仮眠がみられるタイプ(Type2、41.4%、29人)」「規則的な睡眠パターンがみられないタイプ(Type3、4.3%、3人)」の3パターンに分類されることを明らかにした。

さらに、各睡眠パターンと睡眠の質、要介護度、日常生活自立度との関連性を解析した。同研究では、統計学的な検討に十分なデータ数が得られたType1とType2との間で睡眠変数を比較した。

日中に定期的に仮眠を取るType2は、睡眠時間が長い一方で深部体温リズムが不安定

さらに、7人(Type1:1人、Type2:6人)の認知症患者を対象に、貼り付け型の深部体温計を用いて24時間にわたり、深部体温を測定する実験を2週間ごとに合計3回行い、深部体温リズムの安定性、睡眠の質に関わると考えられている睡眠覚醒リズムと深部体温リズム間の時間関係、深部体温リズムの振幅について解析した。その結果、Type1の睡眠パターンを示した1人については、深部体温リズムは安定し、正常な睡眠覚醒リズムと深部体温リズムの時間関係が維持され、深部体温リズムの振幅も大きいことを確認した。

一方、Type2の認知症高齢者では、深部体温リズムが不安定、睡眠覚醒リズムと深部体温リズム間の時間関係について、個人内及び個人間でのばらつきが大きく、深部体温リズムの振幅が小さいことが明らかになった。

グループホーム内の光環境の調節が「深部体温リズムの改善」につながる可能性

そこで、深部体温リズムの発振源である生物時計が、明るい光によって調節される特徴をもつことから、グループホーム内の光照度を測定した。その結果、グループホーム内の光照度はヒトの生物時計の調節に必要な明るさに比べると低い照度であることを確認し、グループホーム内の光環境を調節することが深部体温リズムの改善につながる可能性を指摘した。

グループホームの認知症高齢者の睡眠の質改善方法を検討する上での基盤となる知見

今回の研究は、新型コロナウイルスによる外部との接触に制限がある状況下で実施されたものであるため、入居者が家族や友人等との接触といった社会との交流が不足していることで日中の覚醒度が低下し、睡眠の恒常性維持機構に影響し、睡眠の質が低下した可能性が考えられる。しかし、本成果は住居型グループホームで生活する認知症高齢者の睡眠覚醒リズムと概日リズムの評価法とその実態を明らかにするとともに、睡眠の質を改善するために必要な手段を検討する際の実験的証拠を提供するものと言える。

同研究により、グループホームで生活する認知症高齢者の睡眠と概日リズムの実態が明らかになったことで、今後は照明環境や日中活動の工夫といった環境調整を通じて、概日リズムの安定化を図る介入法の開発とその効果検証が期待される。

「本研究で得られた評価手法を活用することで、睡眠パターンを指標とした個別ケアの最適化にもつながると考えられる」と、研究グループは述べている。(QLifePro編集部)

 

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