従来の抗菌薬が効きにくい尿路感染症、カルバペネム系以外の2薬剤を比較
徳島大学は7月4日、フロモキセフがセフメタゾールと同様に尿路感染症の治療選択肢になり得ることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医歯薬学研究部臨床薬理学分野の新村貴博特任助教、石澤啓介教授、国立健康危機管理研究機構国立感染症研究所薬剤耐性研究センターの鈴木仁人主任研究員、藤田医科大学感染症研究センター感染症創薬研究部門の港雄介准教授らの研究グループによるもの。研究の成果は、「BMC Medicine」に掲載されている。

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近年、薬剤耐性菌による感染症が世界的に深刻な問題となっている。特に、基質拡張型β-ラクタマーゼ(ESBL)産生菌による尿路感染症や腹腔内感染症は、多くの抗菌薬が効きにくく、治療が困難になっている。現在、このような難治性の薬剤耐性菌感染症の治療には広域抗菌薬であるカルバペネム系抗菌薬が第一選択薬として使用されているが、カルバペネム耐性菌の増加や薬剤供給の不安定化を背景に、カルバペネムの使用を控え、温存する治療戦略が求められている。
日本で開発されたフロモキセフとセフメタゾールは、どちらもESBL産生菌感染症に対して有効性が期待されるカルバペネム系以外の抗菌薬として近年注目されている。しかし、国内外においてESBL産生菌感染症に対するフロモキセフの有効性や安全性に関するデータは限られており、より汎用されるセフメタゾールとの比較は十分に実施されていなかった。このような背景から、今回の研究では、日本の大規模な細菌薬剤感受性データベースと診療データベースとを組み合わせ、両薬剤の尿路感染症治療における有効性と安全性を比較することを目的とした。
フロモキセフとセフメタゾール、ともにESBL産生菌を含む大腸菌や肺炎桿菌に有効
今回の研究では、2014~2021年にかけて収集された2つの大規模データベースを活用した。まず、厚生労働省院内感染対策サーベイランス(JANIS)の検査部門データベースを用いて、患者の尿または血液由来のESBL産生菌を含む大腸菌と肺炎桿菌の臨床分離株約100万件に対する両薬剤の抗菌活性を比較した。その結果、フロモキセフとセフメタゾールは、ともに高い有効性を示すことが判明した。
フロモキセフ投与群がセフメタゾール投与群より入院期間短縮、副作用の発生頻度も低い
次に、株式会社JMDCが提供する日本全国の診療データベースを用いて、尿路感染症で入院した患者5,469人(セフメタゾール投与群4,796人、フロモキセフ投与群673人)の治療成績を比較した。主要評価項目である入院期間の中央値は、セフメタゾール投与群が11日であったのに対し、フロモキセフ投与群は4日と有意に短縮された。また、重要な副作用である腎不全の発生頻度も、フロモキセフ投与群で有意に低いこと(3.6%vs7.5%)が示された。一方、28日以内の死亡率については両群間で有意差は認められなかった(1.3%vs2.7%)。
薬剤耐性菌が多い国・地域において、フロモキセフが有効な治療選択肢に
今回の研究により、フロモキセフは、大腸菌と肺炎桿菌に対してセフメタゾールと同等の高い有効性を持ち、入院期間の短縮や有害事象の低減といった優位性を有することも明らかになった。ESBL産生菌感染症の高い有病率を有する国や地域において、フロモキセフは有効な治療選択肢となる可能性がある。「今後は、カルバペネム系抗菌薬などの広域抗菌薬の適正使用を促進し、薬剤耐性菌の拡大防止や医療資源の有効活用につなげるためにも、フロモキセフの臨床的価値をさらに明確にする追加研究が求められる」と、研究グループは述べている。
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・徳島大学 プレスリリース


