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脳で空間情報が「分配・伝達」される流れを解明、ラット実験で-大阪市大

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2021年03月15日 PM12:00

海馬の持つ情報は、下流の脳領域群へどのように分配・伝達される?

大阪市立大学は3月9日、さまざまな空間情報が海馬から海馬台を経て、下流の4か所の脳領域(側坐核・視床・乳頭体・帯状皮質)へと分配される脳情報の流れを、世界で初めて明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科神経生理学の北西卓磨講師、水関健司教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Science Advances」に掲載されている。


画像はリリースより

「いま自分がどこにいて、どこへ向かっているか?」という空間認識は、動物の生存にとって重要な能力だ。空間認識に関するさまざまな情報(例:自分のいる場所・移動スピード・道順などの情報)は、海馬という脳領域で処理される。海馬の一部の神経細胞は、動物のいる場所に応じて神経活動の頻度が変化し、この活動パターンにより場所の情報を表す(これらの細胞は場所細胞と呼ばれる)。同様に、移動スピードや道順により活動が変化する神経細胞も存在し、それぞれの情報を表現する。こうした多様な空間情報は、海馬で処理された後に、海馬の下流の脳領域へと分配されて活用されることで、脳機能を支えていると考えられる。

海馬は、隣接した海馬台という脳領域に投射し、海馬台は4か所以上のさまざまな下流の脳領域へと投射する。このことから、海馬の持つ情報の分配には、海馬台が重要な役割を果たす可能性がある。しかし、海馬の持つ情報が下流の脳領域群へと具体的にどのように分配・伝達されるかについては、これまでわかっていなかった。そこで研究グループは今回、ラットの海馬台において、情報の伝達先を網羅的に同定しつつ神経活動を計測する、大規模電気生理学解析を行った。

多様な空間情報は、→海馬台→下流4脳領域へ領域選択的・非選択的に伝達

一般的に用いられる神経活動の計測手法では、活動を計測している神経細胞がどの脳領域に情報を伝達するかを知ることができない。そこで研究グループは、256個の多点電極を用いて神経細胞の活動を記録する大規模電気生理計測と、光により神経活動を引き起こす光遺伝学の手法を組み合わせて解析。この手法により、ラット海馬台の100個程度の神経細胞の活動を一斉に計測しつつ、さらに、これらの神経細胞の情報の伝達先を網羅的に調べることが可能になった。同手法を用いて、ラットが空間探索の課題を行う際の海馬と海馬台の神経活動を収集し、情報伝達の様式を調べた。その結果、主に3つの事柄を発見した。

第1に、海馬台は海馬に比べて、ノイズに強い頑強な情報表現を持つことを見出した。海馬にはこれまでに知られていたように、場所細胞のような鋭い反応選択性を示す神経細胞が多く存在した。一方で、海馬台の神経細胞では一見したところ反応選択性は緩いものの、神経活動の頻度が高いために海馬と同等の情報量を持ち、さらに神経回路に生じるノイズの影響を受けにくいことがわかった。この正確で頑強な情報表現は、海馬台から長距離の神経投射を通じた下流の脳領域への情報伝達に適していると考えられた。

第2に、多様な空間情報は海馬台から下流の脳領域群へと、領域選択的・非選択的に伝達されることを見出した。具体的には、「移動スピード」と「道順」の情報はそれぞれ帯状皮質と側坐核に選択的に伝達され、「場所」の情報は側坐核・視床・乳頭体・帯状皮質の4領域に均等に分配されることを明らかにした。このことから、海馬台が、情報の種類と標的脳領域に応じて、情報を分配・伝達する役割を持つことがわかった。

第3に、海馬台から下流の脳領域への情報伝達のタイミングは、ミリ秒の時間精度で正確に制御されることを見出した。海馬や海馬台では、動物が活動しているときやレム睡眠中にはシータ波、休んでいるときやノンレム睡眠中にはシャープウェーブ・リップル波と呼ばれる脳波のリズムが発生する。海馬台から下流領域へと投射する神経細胞は、標的とする脳領域によって、シータ波やシャープウェーブ・リップル波のリズムに対して特定のタイミングで神経活動を生じたり、活動の頻度が変化したりすることがわかった。

以上の結果から、多様な空間情報が海馬から海馬台を経て、下流の4領域へと分配される一連の情報分配の様式が明らかになった。

・学習システムの動作原理解明や、海馬の機能異常が原因で起きる疾病の解明に期待

海馬は、空間情報を含めたさまざまな情報を取り扱い、記憶・学習に重要な役割を果たす脳領域であり、その機能低下は認知症の要因となる。今回の研究成果により、海馬台から下流の脳領域への情報分配の様式が、世界で初めて明らかにされた。

「今回の成果は、海馬を中心とした記憶システムの動作原理の解明や、認知症における記憶力低下の病態の理解、海馬の機能異常が原因で起きる疾病の解明につながると期待できる。脳の情報処理を根本的に理解することを目指し、今後も研究を進めていく」と、研究グループは述べている。

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