医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > 「進行すい臓がん」の適切な指標となり得る腫瘍マーカー遺伝子モデル開発-名大ほか

「進行すい臓がん」の適切な指標となり得る腫瘍マーカー遺伝子モデル開発-名大ほか

読了時間:約 3分11秒
2025年05月13日 AM09:20

腫瘍マーカーの値には個人差があり、評価が困難だった

名古屋大学は4月30日、進行すい臓がんに適応し得る新たな予後指標モデルを開発したと発表した。この研究は、同大医学部附属病院 消化器・腫瘍外科の田中晴祥助教、富山大学医学薬学教育部生命・臨床医学専攻の酒井彩乃大学院生、 外科の末永雅也医長、富山大学学術研究部医学系 消化器・腫瘍・総合外科の藤井努教授、名古屋大学大学院医学系研究科 腫瘍外科学の江畑智希教授、名古屋医療センターの小寺泰弘院長(研究当時 名古屋大学大学院医学系研究科 消化器外科学教授)らの研究グループによるもの。研究成果は、「British Journal of Surgery」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

すい臓がんは進行した状態で診断されることが多く、予後の悪いがん種の一つ。手術ができるか否か(切除可能性分類)をもとに治療方針が立てられるが、手術ができないところまで進行していることも少なくない。しかし近頃は、新たな抗がん剤の登場や、放射線療法、手術療法との組み合わせ(集学的治療)の開発によって、少しずつ治療成績が向上している。

この集学的治療の中でも、手術療法は、一度の処置で肉眼的にがんを取り去ることのできる強力な治療法だが、全身への負担も大きく、手術の前後はそれ以外の治療ができないため、治療の「決め手」として適切なタイミングで行うことが重要と考えられている。手術の可否や、その適切なタイミングの判断には、CTなどの画像検査に加えて、CA19-9やDUPAN-2といった腫瘍マーカーの推移が参考となる。しかし、手術によるメリットが十分見込めるかどうかや、その適切な時期については明確な指標はなく、すい臓がん治療を専門とする医師同士の話し合いによって、より適切な方針が検討される。しかし、CA19-9やDUPAN-2といった腫瘍マーカーの値には個人差があるため、これらの評価がしばしば困難になることが課題となっていた。そこで研究グループは、FUT2遺伝子およびFUT3遺伝子のタイプ別に、これらの腫瘍マーカー値の個人差があることに着目し、手術の可否およびそのタイミングを判定する指標の開発を試みた。

/3タイプを加味して作成したTMGM、既存の指標に比べ予後予測能力が優秀

術前に抗がん剤や放射線治療の後に手術を受けたすい臓がん患者のDNAを増幅させて蛍光標識することで、345人中341人の患者のFUT2/3タイプの判別に成功した。まず、切除可能性分類ごとに腫瘍マーカーの推移をみると、CA19-9やDUPAN-2は切除可能性分類による差は軽度だった。一方で、FUT2/3タイプごとに腫瘍マーカーの推移をみると、明らかな差があった。

腫瘍マーカーが下がり切っていないために手術できないと見過ごされた患者がいた可能性

次に、診断時には切除ができない(切除可能性分類ではUR)と診断されたものの、治療がよく効いて手術を行うことができた88人の患者に着目し、FUT2/3タイプごとに予後を解析した。すると、FUT2-欠損やFUT3-欠損といったマイナーなタイプの患者は全体の約3割で、メジャーなタイプの患者とは生存率が大きく異なることがわかった。

以上の結果から研究グループは、「普段、手術のタイミングを判断する時にはCA19-9やDUPAN-2を参考にするが、実はこのマイナーなタイプの患者に対しては、この評価が適切にできていないのではないか」と、考えた。そしてFUT2/3タイプを加味し、腫瘍マーカー遺伝子指標(tumor marker gene model、TMGM)を作った。これをURの患者にあてはめると、これまでの一般的な腫瘍マーカーの正常値を参考にした指標に比べて、TMGMは明らかに予後予測能力が優れていることがわかった。

以上より、従来のように腫瘍マーカーのみに頼った指標では、メリットの少ない手術を行っていた可能性や、手術をするメリットが出てきたのに「腫瘍マーカーが下がり切っていないので、まだ今は手術できない」と見過ごされてきた患者が潜在的にいた可能性が示唆された。

今後は検査キットの開発や、TMGMの効果を実証するための臨床試験が必要

今後、抗がん剤や放射線で治療中のすい臓がん患者に対して、手術が可能かの判断をする際の指標の一つとしてTMGMを利用することで、メリットの少ない手術を回避したり、「まだ手術できない」と見過ごされてきた患者に手術を提案できることが期待される。しかし、このTMGMを用いた適切な手術のタイミングの判断は、現時点では通常の診療で実施できない。これは、今回の研究で使用した検査薬は研究目的で製造されたものであることと、後から振り返って解析をした結果(後方視的研究)であるこという2つの理由による。また、TMGMが有用な指標として日常診療で広く活用されるためにはまだ「FUT2/3遺伝子多型検査キットを開発し、薬事承認を得る」「同キットを使ってTMGMを多くの患者さんにあてはめてみて、実際の効果を確認する」という2つの課題がある。今後は検査キットの研究開発や、TMGMの効果を実証するための臨床試験を実施していく、と研究グループは述べている。

 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 安易な「〇〇フレイル」という概念が、誤解や偏見を招く恐れ-都長寿研ほか
  • 生活保護世帯の子の入院、実態とリスク因子を解明-京大ほか
  • アルツハイマー病、PET検査より高精度な血液バイオマーカーが判明-慶大
  • 三世代158家系のDNAメチル化情報をデータベースで公開-ToMMoほか
  • がんエピゲノムを標的とする新規核酸医薬を開発、動物モデルで良好な結果-阪大ほか
  • あなたは医療関係者ですか?

    いいえはい