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軽度認知障害の高齢者に対する「オンライン運動教室」の有効性を証明-長寿研ほか

読了時間:約 3分9秒
2025年05月16日 AM09:20

オンライン運動教室では、さまざまな理由から参加率と運動強度が低下する可能性

国立長寿医療研究センターは4月24日、)をもつ高齢者を対象とした18か月間のランダム化比較試験(J-MINT)のデータを解析した結果、軽度認知障害の高齢者に対するオンライン運動教室において、対面形式の運動教室と同程度の参加率、運動強度を確保できることが明らかになったと発表した。この研究は、同センター認知症先進医療開発センターの杉本大貴外来研究員、櫻井孝研究所長らの研究グループと、東京都健康長寿医療センターとの共同研究によるもの。研究成果は、「The Journal of Aging Research & Lifestyle」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

J-MINT研究は、65~85歳までのMCIをもつ高齢者を対象とした認知症予防のための多因子介入プログラムの効果を検証するランダム化比較試験。介入群の参加者には、リストバンド型活動量計とタブレットPCが配布され、生活習慣病の管理、週1回の運動教室(全78回)、栄養相談(全15回)、タブレットPCを用いた認知トレーニングが提供された。

SARS-CoV2による感染拡大に伴い緊急事態宣言が発出され、一部地域では対面運動教室の実施が困難となり、試験の途中からビデオ通話システム(Zoom)を活用したオンライン運動教室を導入した。参加者は配布されたタブレットPCを利用し、自宅から運動教室に参加した。

運動介入による認知機能低下予防効果を最大化するためには、十分な回数の運動教室への参加と、適切な運動強度の確保が重要とされている。しかしオンライン運動教室では、アプリケーションへの接続の難しさによる参加率の低下、自宅のスペース確保の問題、タブレットPCの小さな画面を見ながら運動をすることによる運動強度の低下が懸念された。

MCI患者 207人を対象にオンライン運動教室と対面運動教室の参加率・運動強度を比較

そこで研究グループは、介入群に割り付けられ研究に最後まで参加した207人を対象に、オンライン運動教室と対面運動教室の参加率と運動強度を比較した。運動強度はリストバンド型活動量計を用いて以下の式で計算した(運動強度(%)= [(運動時の最大心拍数−安静時心拍数)/(最大心拍数−安静時心拍数)]×100)。最大心拍数は(207−0.7×年齢)で推定した。なお、SARS-CoV2による感染拡大に伴う緊急事態宣言の発出期間は地域によって異なるため、愛知県と東京都で開催された運動教室を分けて比較した。

愛知県はオンライン運動教室の方が参加率高だが運動強度低、接続や安全性の確認が影響

愛知県では、全78回の運動教室のうち2回がオンラインで実施された。運動教室の参加率の中央値は、対面運動教室92%、オンライン運動教室100%であり、オンライン運動教室の方が参加率が高いことが示された(P < 0.001)。

一方、運動強度の中央値は、対面運動教室48.1%、オンライン運動教室32.4%であり、オンライン運動教室の運動強度が低いことが明らかになった(P < 0.001)。この要因として、オンライン運動教室の初回は、適切に接続できているかの確認や安全性・実施手順の確認に時間を要し、十分な運動時間を確保できなかったことが考えられる。

東京都はオンライン運動教室の方が参加率高、運動強度はオンラインと対面で有意差無し

東京都では、全78回の運動教室のうち、24回がオンラインで実施された。運動教室の参加率の中央値は、対面運動教室86%、オンライン運動教室92%であり、オンライン運動教室の方が参加率が高いことが示された(P = 0.046)。また、運動強度の中央値は、対面運動教室51.7%、オンライン運動教室48.8%であり、オンライン運動教室と対面運動教室で運動強度に有意な差は認められなかった(P = 0.279)。オンライン運動教室中に転倒などの事故は発生しなかった。

なお、第26・27回の運動教室は緊急事態宣言のため中止された。その後、研究プロトコルの修正を行い、第28~31回、37~44回、48~58回の運動教室はオンラインで実施された。また、第71回は大雪警報の影響によりオンラインで実施された。

感染症流行のみならず災害発生時などでも運動習慣を維持する手段としての活用に期待

今回の研究により、MCIをもつ高齢者においてもオンライン運動教室の実施が可能であり、対面運動教室と同程度の参加率を達成できることが示された。また、十分な運動時間を確保できれば、運動強度も対面運動教室と同程度に達する可能性があることが示された。

「オンライン運動教室は、移動が困難な高齢者や遠隔地に住む高齢者にとっても有用な選択肢となり得る。また、感染症流行時のみならず、災害発生時や悪天候などで対面での運動機会が制限される場合にも、継続的な運動習慣を維持する手段としての活用が期待される。今後はオンライン運動教室が認知機能の維持や向上にどのように寄与するかについて、より詳細に検証することが求められる」と、研究グループは述べている。

 

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