心不全の悪化は自宅で起こるが、自宅での早期検出は困難だった
東京大学医学部附属病院は4月24日、人工知能(AI)を活用した新しい心不全の早期検出システムを開発したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科先進循環器病学の荷見映理子特任研究員、藤生克仁特任教授、SIMPLEX QUANTUM株式会社の研究グループによるもの。研究成果は、「International Journal of Cardiology」に掲載されている。

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心不全は、一度発症すると再入院を繰り返し死亡リスクが高まる疾患だ。心不全の再発を早期に検出し、薬物療法などを行えば入院を避けることが可能である。しかし、心不全の悪化は自宅で起こるため、自宅での早期検出が重要と考えられるが、患者が自宅で病状の進行を検知する方法は限られている。
ウェアラブルデバイスの単一誘導心電図による心不全検出システムを開発、HFpEFにも対応
今回の研究では、AIを活用した心不全検出システムを開発し、家庭で簡便に心臓の状態をモニタリングすることを可能にした。
今回は、畳み込みニューラルネットワーク(CNN)を用いたAIモデルを構築し、家庭でも利用できる単一誘導心電図を使って心不全の進行度を判定するシステムを開発した。特に、スマートウォッチなどのウェアラブルデバイスで取得した心電図データも解析可能な設計とし、実用性の高い技術を目指した。心電図から心不全のうち左室収縮能が低下しているタイプの心不全(HFrEF)を検出することができるAIモデルの報告はすでに行われているが、今回の研究で新たに開発したAIモデルは、左室収縮能が保たれている心不全(HFpEF)にも対応しているため、両方のタイプの心不全を検出することができる。
開発モデルは高精度に重症度を分類、重症度を数値化する「HFインデックス」も開発
今回の研究では、9,518人の心不全患者および健康な参加者の心電図データを用いて、AIモデルの学習を行った。心電図記録時には、複数の循環器専門医がニューヨーク心臓協会(NYHA)分類を用いて判定し、そのデータを基にAIがNYHA分類を推定した。そして、推定されたNYHA分類からHFインデックスを算出し、心不全の重症度をリアルタイムで数値化する新しい指標を開発した。
その結果、CNNモデルは心不全の重症度をNYHA I~II(無症状~軽度)とNYHA III~IV(中等度~重度)の2つのカテゴリーに分類し、91.6%という高い精度を達成した。また、新たに導入したHFインデックスは、血中脳性(B型)ナトリウム利尿ペプチド(BNP)濃度と正の相関(R = 0.74)を示し、HFインデックスが上昇するとBNPも有意に上昇していくことが前向き観察研究で明らかとなり、心不全の重症度を適切に反映する指標としての有効性が確認された。
前向き観察研究を実施、心不全判定精度は良好でHFインデックスはBNPと相関
さらに、入院治療を受けた心不全患者を対象として、前向き観察研究を実施した。退院後、自宅で携帯心電図を用いて計測された単一誘導心電図からHFインデックスを算出し、BNPとの相関性、判定精度、および再入院との関連について解析を行った。その結果、心不全の判定精度は特異度87.5~93.8%と良好であり、HFインデックスはBNPと良好な相関を示した。加えて、再入院前にBNPよりも早期にHFインデックスが上昇する症例も確認された。これらの結果から、今回の研究で構築されたAIモデルによって、携帯心電図から算出されるHFインデックスを用いることで、心不全患者が自宅にいながらにして心不全の悪化を早期に検出できる可能性が示唆された。
患者や医療従事者の負担減だけでなく、遠隔医療発展にもつながると期待
研究グループは、家庭で簡単に心不全の重症度を判定できるシステムの開発に成功した。このシステムは、携帯型の単一誘導心電図デバイスを活用することで、患者が自宅にいても心不全の早期発見や早期に適切な医療を受けられる可能性を広げる革新的な技術である。「これにより、患者や医療従事者の負担を減らしながら、遠隔医療の発展にもつながることが期待される」と、研究グループは述べている。
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