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卵子の数と質を予測するAIモデル開発、問診・採血のみで可能-東大病院ほか

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2025年08月07日 AM09:30

卵巣機能の低下による妊娠率低下、現在の評価方法には限界がある

東京大学医学部附属病院は7月18日、問診と採血で卵巣機能を予測する人工知能(AI)モデルを開発したと発表した。今回の研究は、同大大学院医学系研究科産婦人科学講座の原田美由紀教授、同大医学部附属病院女性外科の小池洋助教(研究当時、現:同大大学院医学系研究科研究倫理支援室)、サイオステクノロジー株式会社の野田勝彦氏、吉田要氏らによる研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Ovarian Research」に掲載されている。


画像はリリースより
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近年、晩婚化や挙児希望年齢の上昇といったライフスタイルの変化により、加齢に関連した不妊症が増加し、生殖補助医療(ART)の治療患者数は毎年増加傾向にある。2022年には年間54万治療周期が実施され、出生児数は7万7,276人(出生児約10人に1人はARTによる児)になる。しかし、ARTを利用しても加齢に伴う女性の妊孕性の低下を完全に補うことは困難である。体外受精後の胚移植あたりの妊娠率は、20歳代から30歳代前半までは45%程度と比較的高い水準を維持しているが、その後は年齢とともに急激に低下し、治療患者数の多くを占める40歳前後では25%、45歳ではわずか8%と著しく落ち込む。この加齢に伴う妊孕性の低下は、卵巣機能の低下が主な原因と考えられている。卵巣機能は「卵子の数と質」で表現することができる。医療現場では、卵子の数の評価には超音波検査や抗ミュラー管ホルモン(AMH)値の測定が用いられているものの、まだ精度向上の余地があるのが現状である。加えて、卵子の質については評価が難しく、年齢や上述の数的指標からの類推に頼っている状況である。このように、卵巣機能の低下は不妊症の大きな要因であるにもかかわらず、卵巣機能を簡便かつ正確に評価する手段が限られており、これが大きな課題となっている。

ART治療患者の情報と残余血清を収集、機械学習モデルを複数構築して検証

今回の研究では、不妊治療を開始する以前の段階から簡単に入手できる情報を用いて、卵巣機能を高精度に予測できるツール開発に取り組んだ。まず、AIモデルの学習に必要なデータ収集を行った。東京大学医学部附属病院と関連施設から、卵巣機能など詳細なデータが揃っているART治療患者の医療情報と、診療過程で得られた残余血清を収集した。残余血清からは卵巣機能に影響を及ぼす可能性のあるさまざまな関連物質を研究室で測定した。次に、大規模・複雑なデータの取り扱いを得意とするAIを活用して、収集したデータから複数の予測モデルを構築した。さらに、モデル精度を高めるために有用な指標を選別し、対象項目の絞り込みを行うことで、より高精度かつ実用的なモデルの開発を試みた。

卵子の数をより正確に予測、これまで不可能だった卵子の質の予測も実現

卵子の数を予測するモデルでは、5項目を入力に用いたランダムフォレストモデル(機械学習モデルのひとつで、決定木とアンサンブル学習を組み合わせたアルゴリズム)が最も高い予測精度を示し、AUC (area under the receiver operating characteristic curve:機械学習モデルや臨床検査などの精度を表す指標。1 に近いほど精度が高い)が0.91という優れた成績を収めた。これは、現在最も広く用いられている指標であるAMH値単独のAUC 0.78を大きく上回る結果であり、今回開発したモデルの優位性を示している。これにより、今回の開発モデルは従来法と比較して、卵子の数をより高精度に予測できる可能性を有していることが示唆された。

卵子の質を予測するモデルでは、14項目を入力に用いたランダムフォレストモデルが最も高い予測精度を示し、AUC 0.80という結果が得られた。これまでに、卵胞液の分析など不妊治療開始後に得られるさまざまなデータを用いた研究が多数報告されているが、いずれも臨床応用には至っておらず、卵子の質を予測するための臨床的に確立された手法は、現時点では存在していない。今回の成果は、身体への負担が少ない方法により、卵子の質を予測できる可能性を示唆しており、今後の臨床応用に向けた大きな一歩となることが期待される。

プレコンセプションケア、不妊治療の個別化・最適化に期待

今回開発された卵巣機能予測モデルは、年齢や月経周期などの聞き取り内容と、少量の採血からわかる項目を入力すると、「卵子の数と質」を従来の方法よりも高い精度で予測することができる。このモデルを活用することで、プレコンセプションケア(将来の妊娠を見据えた健康管理)、個別化医療の最適化につながることが期待される。

「プレコンセプションケアにおいては、卵巣機能に個人差が大きく、加齢による変化、全身の健康状態、既存疾患の影響を受けるため、現状では正確な評価は非常に難しい。しかし、卵巣機能を簡便に把握できるようになれば、それに応じた適切な対策を講じることが可能となり、将来的な妊娠を見据えた生活習慣の改善や健康管理を通じて、不妊症の予防につながることが期待される。個別化医療においては、不妊治療を行うにあたって、一般不妊治療とARTの選択、さらには採卵時における卵巣刺激法の決定など、治療方針の立案において卵巣機能の評価が重要な指標となる。患者個人ごとに高精度な卵巣機能の予測が可能になれば、個々の状態に応じて最適化された医療を提供することができるようになり、より質の高い個別化医療の実現が期待される」と、研究グループは述べている。(QLifePro編集部)

 

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