塩分制限が必要なCKD患者、高濃度塩味を不快と認識できない可能性
京都府立医科大学は7月16日、塩味に甘味を加えることで、味覚の相互作用により塩味忌避性が低下することを発見したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科腎臓内科学の草場哲郎助教、同大大学院の奥野-尾関奈津子氏、同大大学院医学研究科循環器内科学的場聖明教授、ハウス食品グループ本社株式会社の研究グループによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」にオンライン掲載されている。

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近年の高齢化に伴い、慢性腎臓病や慢性心不全など臓器不全患者が増加している。高血圧はこれらの疾患発症の主要因であり、適切な血圧管理と塩分制限(1日6g以下)は腎疾患・心血管疾患予防に不可欠である。しかし多くの患者で推奨レベルの塩分制限は達成されていない。
塩分制限は一般的に、塩分を好むという前提に基づいている。しかし、これまでの研究から、哺乳類が低濃度の塩を好む一方で、高濃度の塩には嫌悪反応を示すことが報告されている。以前、研究グループは、塩化ナトリウムを含浸させた濾紙を使用して、高濃度塩味に対する忌避反応を定量化する簡便な方法を確立し、健常者および慢性腎臓病(CKD)患者において、高濃度の塩味を嫌う反応(忌避反応)を調べた。その結果、CKD患者では塩味を認識しづらく、高濃度塩味に対する忌避反応が低下していることがわかった。これは、CKD患者が高濃度塩味を不快だと認識できず、減塩をさらに難しくしている可能性を示唆した。
また、「味覚相互作用」として知られる現象がある。これは、異なる味覚が同時に刺激されることで、味の強度が増強または抑制される現象を指す(例:スイカに塩、レモンに塩、コーヒーに砂糖)。味覚相互作用の研究では、甘味が酸味や塩味を抑制することが示されており、特定の味覚が他の味覚刺激によって、どの程度増強または抑制されるかが示されている。しかし、味覚の相互作用によって、高濃度味覚刺激への忌避反応にどのような影響を与えるのかは明らかになっていない。
味覚相互作用に着目し、高濃度塩味への忌避反応を低下させる要因を検討
今回の研究では、味覚相互作用に着目し、高濃度塩味に対する忌避反応を低下させる要因を検討した。具体的には、健常者・CKD患者の両方において、塩味に甘味を加えることで、塩味に対する忌避性が低下するかどうかを調べた。また、塩味以外の、酸味・苦味においても、甘味を加えることによる忌避性の変化を調べた。
はじめに、健常者・CKD患者で、異なる濃度の塩味、酸味、苦味に対する忌避反応を調べた。濾紙を用いた味覚試験を応用し、各種味覚の認知機能とともに高濃度刺激に対する忌避反応を評価した。濾紙に種々の濃度の食塩水(塩味)、クエン酸水(酸味)、キニーネ水(苦味)、ショ糖水(甘味)を一滴垂らし、口腔内で濾紙を3秒間保持し、味覚を正確に同定できるか、その刺激が「嫌い」「嫌いじゃない」を選択してもらい、味覚の認知、忌避反応を定量化した。
また、甘味添加による忌避性への影響を評価するため、塩味・酸味・苦味の各試薬に80%ショ糖水を等量添加した試薬でも、同様の検査を行った。
CKD患者、甘味添加により高濃度塩味への忌避反応がほぼ完全に消失
結果、健常者では、5%食塩水から忌避性が現れ、濃度依存的に忌避性を示す割合が増加し、甘味を加えることで、塩味に対する忌避反応は低下した(塩味に対する忌避反応を示す割合は、それぞれ、5%食塩水で32%から17%へ、10%食塩水で45%から25%へ減少)。酸味や苦味においても、濃度が上昇するにつれて忌避性を示す割合が増加し、特に苦味で顕著であった。塩味と同様に、甘味を加えたところ、酸味への忌避反応は低下したが、苦味では変化に乏しく、強い忌避反応が維持された。
CKD患者では、健常者と比較すると、高濃度塩味への忌避反応が低下しており、10%食塩水に忌避反応を示したCKD患者の割合は、わずか15.2%であった。健常者と同様に、CKD患者においても甘味を加えることにより、高濃度の塩味への忌避反応は低下した。10%および20%食塩水で忌避反応を示した割合は、それぞれ15.2%から3.0%へ、および21.2%から7.6%へと低下した。この結果は、甘味を加えることにより、高濃度塩味に対する忌避反応がほぼ消失していることを示している。
酸味については、甘味添加で忌避反応に変化を示さなかった。これは、健常者と比較し、CKD患者では、酸味を認知する機能が低下しており、そもそも忌避反応を示している割合が少ないことに由来していると考えられる。苦味についても、健常者と同様に、甘味添加による変化は認めなかった。
甘味を控えることで塩味への感受性を高め、減塩行動につながる
今回の研究では、哺乳類が最も好む味である甘味の添加による各種味覚への忌避反応の変化が検討され、高濃度塩味に対する忌避反応は、甘味添加により低下することが明らかになった。特にCKD患者では、もともと高濃度塩味に対する忌避性が低下しているが、甘味を加えることで、その忌避反応はほぼ完全に消失した。このことは、甘味を含む食事では、高濃度塩味に対し、通常以上に忌避反応を示しにくく、無意識に塩分摂取過剰を助長してしまう可能性を示唆する。「食事の中でも、甘味を控えることで、塩味への感受性を高め、減塩行動に繋がるのではないかと考える。甘味を加えることによる変化が生じる要因が明らかになれば、減塩指導をする上で、さらに有用な手立てになると思われる」と、研究グループは述べている。
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・京都府立医科大学 プレスリリース


