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子の腸炎発症に、母親由来の「口腔細菌」が関与している可能性-阪大ほか

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2025年08月07日 AM09:20

母親の口腔内ディスバイオシスが、乳児の腸内細菌叢に与える影響は不明だった

大阪大学は7月17日、母親の口腔細菌叢の乱れが乳児の健康に永続的な影響を及ぼす可能性があることを示したと発表した。この研究は、同大免疫学フロンティア研究センター免疫微生物学の北本宗子特任准教授と鎌田信彦特任教授(大阪大学感染症総合教育研究拠点、米国ミシガン大学との兼任)、ミシガン大学医学部消化器内科学の原口雅史研究員(研究当時)らの研究グループによるもの。研究成果は、「Cell Reports」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
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ヒトを含む哺乳動物は、母親の胎内にいる間は無菌状態であり、出生後に外部から細菌を獲得することで腸内細菌叢が形成される(=早期定着腸内細菌)。新生児や乳児は、食事などさまざまな環境由来の細菌に加え、出生時および出生後に母親との密接な接触を通じて、母親のさまざまな体表や粘膜組織(口腔、皮膚、膣、腸管)から共生細菌を獲得することが知られている。この母子間の垂直感染によって形成される早期定着腸内細菌叢は、粘膜免疫の寛容性を促進し、乳幼児の免疫システムの構築や長期的な健康維持において重要な役割を果たすことが明らかとなってきた。

一方で、新生児・乳児期における早期定着腸内細菌の乱れ(例:抗生剤投与)は、将来的に炎症性腸疾患や精神疾患、アレルギー疾患などの発症リスクを高める可能性があることも報告されている。しかし、母親から移行してきた細菌が具体的にどこに由来し、また子の健康や疾患にどのように関与しているかについては、多くの点が未解明のままだ。

研究グループは以前、口腔内ディスバイオシスが炎症性腸疾患の発症に寄与していることを、動物モデルおよびヒト検体を用いた研究によって明らかにした。そこで今回、母親の口腔内ディスバイオシスが乳児の腸内細菌叢に与える影響や、炎症性腸疾患の病態形成に関与し得るのか検証を行った。

母体の口腔内ディスバイオシスが、子の早期の腸内細菌叢構成に影響

研究グループは、母親の口腔内ディスバイオシスが子の腸内細菌叢に与える影響について、歯周炎マウスモデルを用いて検証を行った。まず、妊娠前の雌マウスにリガチャーを挿入して口腔内ディスバイオシスを誘発し、さらに口腔病原細菌であるKlebsiella aerogenes(K. aerogenes)を経口投与した後、雄マウスと交配させ、母から子への細菌伝達を解析した。

口腔内ディスバイオシスを持つ母マウスから産まれた仔マウス(生後2週齢)と口腔内ディスバイオシスを持たない母マウス(リガチャーを長期挿入しておらず歯周炎が発症していないマウス:以下、コントロール群)から産まれた仔マウスの腸内細菌叢を解析したところ、母体の口腔内ディスバイオシスが仔マウスの腸内微生物叢の初期コロニー形成に影響を与えることが確認された。さらに、K. aerogenesは口腔内ディスバイオシスを持つ母マウスから生まれた仔マウスの腸管内で顕著に増加しており、母体由来の口腔内病原性細菌が仔の腸へ移行していることを確認した。一方で、コントロール群から産まれた仔マウスの腸管内では、K. aerogenesは検出されなかった。

これらの結果をふまえ、母体の口腔内ディスバイオシスが、乳幼児の腸管免疫システムに与える影響を検証した結果、口腔内ディスバイオシスを持つ母マウスから産まれた仔マウスの腸管内では、コントロール群から産まれた仔と比較して、炎症性腸疾患の腸炎憎悪に関与すると考えられているRORgt陽性Th17細胞や組織常在性記憶T細胞(tissue-resident memory T cell:TRM)の増加および炎症関連遺伝子の亢進がみられた。

母体由来の口腔病原性細菌が、子の腸炎感受性を高める

さらに研究グループは、これらのモデルから産まれた仔マウス(生後2週齢)に対して、抗CD3抗体を投与し腸炎を誘導したところ、口腔内ディスバイオシスの母から産まれた仔マウスの腸炎は、コントロール群の仔マウスよりも重度であることが明らかとなり、母体の口腔内ディスバイオシスが子の腸炎感受性を高めることが示唆された。さらに、交叉保育実験から、母体由来口腔病原細菌が子へ暴露される時期が、妊娠期よりも出生後の方が後の子の腸炎感受性に大きな影響を与えることを見出した。

母体の口腔内ディスバイオシスが子の健康に長期的な影響を及ぼす可能性

さらに、口腔内ディスバイオシスを持つ母から産まれた仔マウスでは、腸管免疫プロファイルおよび腸内細菌構成の変化、またそれに伴う腸炎感受性の高さが生後7週齢(成人期)の時点でも確認された。この結果は、母体の口腔内ディスバイオシスが子の健康に長期的な影響を及ぼす可能性を示している。

母体の口腔内微生物叢を改善するための医療政策や予防的介入法の開発に期待

今回の研究成果により、母体の口腔状態が子どもの将来の健康に深く関わることが示された。「母体の口腔内微生物叢を改善するための予防的介入(例:歯周病治療やプロバイオティクスの利用)が、将来の腸疾患や免疫関連疾患のリスク軽減につながる可能性があると考えられ、この知見に基づき、新たな医療政策や介入方法の開発が期待される」と、研究グループは述べている。(QLifePro編集部)

 

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