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成人脳幹部神経膠腫、放射線化学療法が著効しIDH変異確認の重要性示唆-新潟大

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2025年08月06日 AM09:20

予後不良な脳幹部神経膠腫、成人型の一部はテモゾロミド感受性を示す可能性

新潟大学は7月17日、通常化学療法が無効で極めて予後不良である脳幹部神経膠腫(生命を維持する中枢である脳幹部にできる小児に多い神経膠腫)に対して、放射線化学療法により腫瘍の縮小とともに、症状であった聴力低下を改善させることに成功したと発表した。今回の研究は、同大脳研究所脳神経外科学分野の岡田拓也医員、大石誠教授、腫瘍病態学分野の棗田学准教授、病理学分野の柿田明美教授、清水宏准教授、同大医学部耳鼻咽喉科学分野の堀井新教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Frontiers in Oncology」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
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脳幹部神経膠腫は多くの場合小児期に発生し、ヒストンH3K27M遺伝子変異を有することが多い。ヒストン変異を有する症例は、ほとんど全ての症例でテモゾロミドに対する抵抗性を示すMGMTが発現していることが知られている。放射線治療が一時的に効果的な症例は見受けられるが、一般的に予後は極めて不良であり、生存期間中央値も1年未満である。一方で、成人脳幹部神経膠腫の一部には、IDH変異を有することが知られている。IDH変異を有する星細胞腫では約7割でMGMTが低発現であり、それらの症例はテモゾロミドへの感受性を示すことが知られている。IDH変異を有する神経膠腫では2-ヒドロキシグルタル酸(2HG)という代謝物が蓄積するため、磁気共鳴スペクトロスコピー(MRS)でIDH変異の有無が判定可能である。

30代男性症例、病理診断でIDH変異型星細胞腫と確認

症例は30代男性。2年前より徐々に進行する左聴力低下を自覚したために頭部MRIを施行され、脳幹部に腫瘍性病変を認め、医歯学総合病院脳神経外科に紹介された。聴力低下は、脳幹における左聴神経の出口に腫瘍が及んでいたために生じたと考えられた。通常の脳幹部神経膠腫に比べて病変の局在が橋正中部ではなく外側に偏在していたこと、また、症状の進行が緩やかであったことより、ヒストン変異を有する脳幹部神経膠腫ではない可能性が考えられた。

そこでまず、MRSを施行したところ2HGが検出され、IDH変異型星細胞腫の可能性が示唆された。さらに開頭生検術を施行し、病理診断はIDH変異型星細胞腫(WHOグレード3)だった。

テモゾロミド治療により腫瘍縮小、さらに聴力機能の回復も確認

病理診断を踏まえて、テモゾロミド併用放射線治療54グレイ(30分割)、続いてテモゾロミド維持療法を施行したところ、腫瘍は徐々に縮小した。テモゾロミド維持療法を1年間続けたところで有効性を示したために一旦中止とした。その頃より自覚的にはほとんど聞こえていなかった左聴力が回復していることを自覚したため、改めて耳鼻科で聴力検査を行ったところ、ほとんど左右差がない範囲まで左聴力が回復していた。

脳幹部神経膠腫の成人例、積極的にIDH変異の有無検討することの重要性を示唆

脳幹部神経膠腫でも予後不良のヒストンH3K27M変異ではなく、比較的予後良好であるIDH変異を有する神経膠腫が含まれることがわかった。これらの症例ではテモゾロミドが効くことが予想されるため、積極的にMRSでスクリーニングを行い、さらに安全に生検可能な場合は治療方針決定のために生検が肝心であることが示された。「本症例では、驚くべきことに聴力低下の症状が改善したため、成人例の脳幹部神経膠腫全例で、IDH変異の有無についての検討が必要と考えられた。さらなる症例の蓄積や前向きの検証が期待される」と、研究グループは述べている。(QLifePro編集部)

 

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