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透析の副作用軽減に期待、「高濃度水素水透析システム」を開発-山口大ほか

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2025年08月07日 AM09:10

透析治療による「酸化ストレス」、倦怠感やさまざまな合併症の一因に

山口大学は7月17日、血液透析に伴う疲労感や合併症の原因とされる「酸化ストレス」を軽減するため、高濃度の水素を透析液に供給する画期的なシステムを開発したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科器官病態内科学講座の佐野元昭教授、澁谷正樹講師らの研究グループによるもの。研究成果は、「ASAIO Journal」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

日本の血液透析患者は依然として多く、特に高齢化に伴う重症患者の増加が医療現場の課題となっている。透析治療は生命維持に必須であるが、人工臓器を用いることによる非生理的な性質から、体内で慢性的な炎症や「酸化ストレス」が発生する。これが、患者を悩ませる倦怠感やさまざまな合併症の一因となっている。

透析治療中に、有害な活性酸素除去する「水素」を効率的に供給する技術を開発

この課題に対し、研究グループは、有害な活性酸素を選択的に除去する能力を持つ水素に着目。透析治療中に水素を効率的に供給するための新しい技術を開発した。今回開発されたシステムは、水を直接電気分解する従来の方式とは異なり、株式会社ドクターズ・マンとの共同研究で独自に開発した「ガス分離中空糸膜」を用いた吸引溶解方式(中空糸膜コンタクター方式)を採用している。従来の加圧溶解方式と比べて気泡を形成しにくいなどの特徴がある。この「飽和水素水道水」から、透析治療の原水となる「水素添加RO水」を作製する。

高濃度水素を安定供給し十分な抗酸化作用を発揮、体外循環回路内で作用することを確認

同システムは、透析用水(RO水)の段階で約1,600ppb、そして最終的に患者に使用される透析液においても230~280ppbという安定した高濃度の水素を維持することに成功した。これは、十分な抗酸化作用を発揮させる上で重要な成果である。

ビーグル犬を用いた透析実験で、水素の血中濃度を詳細に測定した。その結果、ダイアライザー(血液透析に使われる人工腎臓)を出た直後の血液では、水素濃度が透析液の54.0~67.7%に達する高い値(定常状態で139.7~192.6ppb)を示した。一方、全身循環に入った後の肺動脈での濃度は3.4~7.4ppbと著しく低下。頸動脈に至っては、0.1~0.5ppbと、ごくわずかであった。

この結果は、ダイアライザーを介して血液中に取り込まれた水素が、体内へ戻った際に肺での呼吸を通じて速やかに排出されることを強く示唆している。これにより、同透析法における水素の主な作用部位が、「体外循環回路内(血液回路とダイアライザー)に限定される」ことが示唆された。

導入コスト低/高機能な水素水透析の実現に期待

同システムは、既存の個人用透析用水作製装置に接続して使用できるコンパクトなユニットとして設計されている。これにより、大掛かりな設備更新が不要で、導入コストを抑えながら高機能な水素水透析を実現できる。そのため、多くの医療機関への普及が期待される、と研究グループは述べている。(QLifePro編集部)

 

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