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スマホでセルフ「認知行動療法」アプリ、うつ状態の改善を証明-京大

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2025年05月12日 AM09:20

うつ病の診断基準を満たさない「」、QOL低下や死亡率の上昇とも関連

京都大学は4月25日、人口の10%以上が経験し、労働生産性の低下などの原因となる閾値下うつ状態を有する成人を対象に、スマートフォンを用いて認知行動療法()スキルを自学自習できるアプリ「レジトレ!(R)」を開発し、5種類のCBTスキルの効果を検証する世界最大の無作為割り付け比較試験(RCT)を実施したと発表した。この研究は、同大成長戦略本部の古川壽亮特定教授、医学研究科の田近亜蘭准教授、豊本莉恵特定助教、LUO Yan同助教(研究当時)、中山健夫同教授、近藤尚己同教授、福間真悟同特定教授らの国際共同研究グループによるもの。研究成果は、「Nature Medicine」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

閾値下うつ状態は、抑うつ症状があるものの、うつ病の診断基準を満たさない状態を指し、約11%の人口が該当すると推定される。この状態は労働生産性の低下やQOL低下を引き起こすだけでなく、死亡率の上昇とも関連しており、社会的・経済的負担が大きい。しかし、医療資源の限界から支援が行き届きにくいという課題が存在する。

CBTは有効な心理療法として確立されているが、従来の複数スキルを組み合わせた形式では、個々のスキルの相対的有効性が明らかではなかった。そこで今回の研究は、スマートフォンを活用することでCBTの構成要素の効果を解明し、社会実装を視野に入れた今後のデジタルメンタルヘルス介入の最適化や、個別化に貢献する知見を提供することを目的として実施された。

3,936人にスマートフォンCBTを利用してもらい、閾値下うつ状態への効果を確認

研究では、行動活性化(BA)、認知再構成(CR)、問題解決(PS)、アサーション(AT)、睡眠行動療法(BI)の5つのCBTスキルについて、それぞれ単独および各要素を組み合わせた効果を比較可能な2×2要因試験を4つ実施。全国から3,936人の参加者をリクルートした。

主要アウトカムである抑うつ症状(PHQ-9スコア)の変化について、6週間後の解析では全てのスキルがシャムアプリと比較して改善効果を示した。特に行動活性化、睡眠行動療法、行動活性化+認知再構成、行動活性化+問題解決、行動活性化+アサーションが大きな効果を示した。効果サイズはそれぞれ-0.48、-0.46、-0.47、-0.49、-0.44と、スマートフォンによる自学自習による介入としては予想以上の効果が確認された。うつ病に対する抗うつ薬の効果がプラセボに比べて-0.31程度の効果サイズであることを考えると、閾値下うつ状態に対してスマートフォンCBTがしっかりとした効果を有していることが実感できた。

効果は半年後も継続、行動活性化+認知再構成や睡眠行動療法などで高い効果

効果は6週の介入後も持続し、半年後(26週)にも有意差を維持した。特に睡眠行動療法、行動活性化+認知再構成、行動活性化+問題解決、行動活性化+アサーションが有効であった。

その他、不安症状(GAD-7)、不眠(ISI)、ウェルビーイング(SWEMWBS)においても改善効果が確認され、これら副次アウトカムについては、それぞれ異なるスキルが特に有効だった。

CBTスキル獲得支援のスマホを持つことでストレスに強くなる自己トレーニングが可能に

今回の研究は、心理支援を受けづらい社会環境にある人々にとって、スマホを活用した新たなセルフヘルプ手段を提示するものであり、公衆衛生の観点からも大きな意義がある。また、エビデンスに基づく個別化された心理介入の設計に寄与し、今後のメンタルヘルス施策の発展に大きく貢献することが期待される。さらに、オンライン同意取得、アプリ配信、効果評価までの全ての工程を遠隔で完結する分散型臨床試験として実施した点でも先進的であり、今後のデジタル介入研究のモデルケースとなる可能性を示した。

「本研究は、CBTを構成する個別スキルの有効性を、世界で初めて質の高い臨床試験によって厳密に比較・検証した点に大きな学術的意義がある。いわゆるドードー鳥仮説(全ての心理療法は等しく有効とする見解)に対し、CBTの中でもスキルごとに効果が異なることを明示し、今後の介入設計に対して選択的・戦略的アプローチの重要性を示した。今後は、CBTスキルの獲得を支援するスマホさえポケットに入れておけば、社会に満ち溢れたストレスに強くなる自己トレーニングが可能となるばかりでなく(私たちはポケットの中のセラピスト(therapist in a pocket)と呼んでいる)、個人特性に応じたスキルマッチング、AIによる介入内容の最適化などを通じ、心理療法の個別化とスケーラブルな展開の両立が期待される」と、研究グループは述べている。

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