慢性膵炎患者の予後、最近の状況は明らかになっていなかった
東北大学は11月25日、慢性膵炎患者では、一般集団に比べ、がんの発症リスクが約1.6倍、膵がんは約6.4倍高いことを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科消化器病態学分野の松本諒太郎非常勤講師、菊田和宏非常勤講師、正宗淳教授らの研究グループが主導した多機関共同研究によるもの。研究成果は、「Journal of Gastroenterology」に掲載されている。

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慢性膵炎は、遺伝的要因や環境要因が関与する膵臓の線維化・炎症性疾患で、繰り返す腹痛や背部痛のほか、進行例では膵外分泌機能不全、糖尿病を引き起こし、栄養障害を伴うこともある。また、慢性膵炎は膵がんのリスクの一つであることも知られている。アルコールが最大の成因だが、原因が明らかでない例(特発性)も多い。日本国内では約5万6,500人の患者がいると推定され、その平均年齢は約62歳である。
これまでの研究では、慢性膵炎患者は一般集団に比べ死亡率が高く、主要な死因は膵がんを含むがんであることが報告されてきた。しかし、過去の報告は患者規模が限られるか、治療の進歩を反映していない古いデータに基づくものが多く、最新の全国的状況は十分に把握されていなかった。近年、日本の保険診療では膵酵素補充療法や膵管ステント留置、体外衝撃波結石破砕術などの治療が導入され、診療ガイドラインにも反映されているが、これらの導入後における死亡率やがん発症リスクの評価は不十分だった。また、慢性膵炎患者に対する膵がん検査の有用性についてはエビデンスが乏しいのが現状だった。
慢性膵炎患者1,110例を対象、がん発症率や死亡率を全国規模で調査
今回の研究は、同大の研究グループが主導し、日本における慢性膵炎患者の死亡率や膵がんリスク、定期的受診の効果を明らかにすることを目的として実施された。全国28施設において、2011年に治療を受けた慢性膵炎患者1,110例を対象とした多機関共同後ろ向きコホート研究である。患者におけるがんの発症率や死亡率を評価するため、標準化発生比(standardized incidence ratios; SIR)および標準化死亡比(standardized mortality ratios; SMR)を算出し、がん発症や全生存に影響する因子を解析した。
慢性膵炎患者のがん発症リスク約1.6倍、膵がんは約6.4倍
解析の結果、慢性膵炎患者では、がんの発症リスクが一般集団の約1.6倍、膵がんは約6.4倍と高いことが明らかになった。追跡期間中に143例(12.9%)が死亡し、最も多い死因はがん(47.5%)だった。SMRは全体で1.20(95%CI、1.01-1.42)、アルコール関連慢性膵炎では1.49(95%CI、1.23-1.81)と上昇していたが、アルコール非関連例では上昇は認められなかった。
定期検査実施群で、膵がん診断後の生存率が有意に高いことが判明
また、膵がんは全生存に最も強く関連し、多変量解析ではハザード比48.92と非常に高い影響を示した。さらに、膵がん患者において、定期的に慢性膵炎の検査(3か月に1回以上)を受けていた群は、診断後の生存率が有意に高いことが示された(P=0.011)。
「今後は、慢性膵炎患者の膵がん検査の標準化やフォローアップ体制の整備が求められる。本成果は、膵がんの早期発見・治療成績の向上に資する重要な知見として、医療現場や診療ガイドラインへの反映が期待される」と、研究グループは述べている。
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