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ミトコンドリアゲノムの欠失阻止メカニズムを解明-理研

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2019年04月19日 PM12:15

欠失変異型mtDNAの増加は、老化、発がん、神経疾患などに関与

理化学研究所は4月17日、出芽酵母のミトコンドリアゲノム()の欠失を阻止する新たなメカニズムを発見したと発表した。この研究は、理研環境資源科学研究センターケミカルゲノミクス研究グループの凌楓専任研究員らによるもの。研究成果は、英国の科学雑誌「Scientific Reports」オンライン版に4月1日付で掲載された。


画像はリリースより

ミトコンドリアは、細胞の呼吸機能を果たしており、呼吸に不可欠なタンパク質群はミトコンドリアゲノム(mtDNA)がコードしている。mtDNAの一部が欠失する変異が起こると、呼吸機能に欠かせない遺伝子が欠落した小さなmtDNA分子が生成され、生物の呼吸機能に悪影響を及ぼす。ヒト細胞においては、加齢に伴って欠失変異型mtDNAの割合が増加し、細胞内に蓄積していくと、やがてパーキンソン病、がん、そして遺伝病の一種であるミトコンドリア病の発症につながることが知られている。

現時点で、欠失変異型mtDNAの発生を抑える方法はない。一方で、これまでの研究により、mtDNA複製の主要メカニズムがDNA相同的組換えであることが確認されており、また、研究グループは、理研で発見されたmtDNAの相同的組換え酵素「」が、mtDNAの組換え依存型複製(ローリングサークル型複製)とゲノム分配に必要であることなどを明らかにしてきた。そこで今回、研究グループは、モデル生物である出芽酵母を用いて、Mhr1がmtDNA欠失変異の発生に対してどのように作用するのかを調べた。

mtDNAの相同的組換え酵素Mhr1が複製だけでなく欠失変異も抑制

研究チームはまず、ABF2遺伝子を欠損させた∆abf2変異体を作製。出芽酵母のAbf2は、mtDNAをコンパクトにまとめる役割を持ち、欠損させるとミトコンドリアゲノムが不安定になることが知られている。同時に、ABF2遺伝子を欠損させ、かつMHR1遺伝子に点突然変異を持たせた∆ mhr1-1二重変異体も作製し、両者を、呼吸機能を持つ酵母だけ生育できる培地(非発酵炭素源培地)で培養した。次いで、二重変異体を、呼吸機能が阻害された酵母でも生存可能な培地(発酵性炭素源培地)に移し、Mhr1がmtDNA欠失変異の生成を抑制するか否かについて、種々の解析により詳しく調べた。

その結果、∆abf2変異体では、mtDNAの欠失変異が高頻度に引き起こされることを確認した。さらに、∆abf2 mhr1-1二重変異体においては、mtDNAの欠失変異が一層増加し、細胞の呼吸機能が失われることが判明した。また、非発酵炭素源培地で呼吸機能を維持した∆abf2 mhr1-1二重変異体を発酵炭素源液体培地で生育させると呼吸機能を維持できなくなったが、正常型のMhr1を大量発現させて活性を増強させると、呼吸機能を持つ酵母が顕著に増加した。以上の結果から、Mhr1を介するmtDNAの相同的組換えが、mtDNA欠失によるミトコンドリアゲノムの不安定化を防ぐことで、細胞の呼吸機能を維持することが示された。

mtDNAの相同的組換え酵素であるMhr1が、mtDNA複製だけでなくmtDNAの欠失変異も抑制するという今回の研究の成果は、mtDNAの完全性を維持する上でのDNAの相同組み換えの重要性をさらに強く示すもの。mtDNAの欠失変異は、老化、発がん、神経疾患、ミトコンドリア病の発症と深く関連しているにも関わらず、これまでその発生を抑える方法が見つかっていなかった。今回の研究による知見から、mtDNAの欠失変異を防ぎ、ヒト健康寿命の維持や、遺伝病の一種であるミトコンドリア病対策に貢献する新しい方法の開発につながることが期待されると研究グループは述べている。

 

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