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遺伝性痙性対まひ、モータータンパク質の変異による暴走が原因と判明-東北大ら

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2019年09月02日 AM11:30

1分子を解析できる特別な顕微鏡を用いてKIF1Aを観察

東北大学は8月29日、神経細胞内でトラックの役割を果たすKIF1Aモーターと呼ばれる分子の運動を、1分子レベルで観察できる特別な顕微鏡で観察し、運動神経疾患の新たな原因を発見したと発表した。この研究は、同大学学際科学フロンティア研究所の丹羽伸介准教授らのグループが、カリフォルニア大学デイビス校の千葉杏子研究員、リチャード・マッキニー助教授らと共同で行ったもの。研究成果をまとめた論文は、学術誌「米国科学アカデミー 紀要」(PNAS)に掲載されている。


画像はリリースより

神経細胞は非常に大きいため、神経細胞の形は「」と呼ばれる神経細胞内の輸送網によって支えられている。軸索輸送においてKIF1Aと呼ばれるモータータンパク質が、トラックの役割を果たしている。これまでの研究では、KIF1Aモーターの機能が低下することが、神経細胞の機能に異常を引き起こし、運動神経疾患や、アルツハイマー病などの原因になるといわれてきた。

」ではKIF1Aのブレーキが壊れ暴走

今回研究グループは、KIF1Aモーターが運動する様子を1分子レベルで観察できる特別な顕微鏡で観察。すると、健常人のKIF1A モーターはブレーキを備えているため、動きが規則正しく制御されていた。一方で、「遺伝性痙性対まひ」と呼ばれる運動神経疾患の患者の神経細胞では、KIF1Aモーターのブレーキが壊れていて暴走状態になっており、KIF1Aモーターは常に活発に輸送を行うことがわかった。

これまではKIF1Aモーターのような神経細胞内のトラックの「機能の低下」が神経疾患の原因であると考えられてきた。今回の研究で、逆に神経細胞内のトラックが「暴走」することが神経疾患の原因になることが初めて明らかとなった。

運動神経の働きの低下は、遺伝的な異常を持たない健康な人の老化でも見られる症状。老化した人の神経細胞でもまたKIF1Aモーターが暴走状態になっている可能性があり、暴走状態のKIF1Aモーターの働きを抑えるような薬剤は、運動神経の働きを正常に保つための新たな標的になる可能性がある。また、 のような軸索輸送のトラックの異常はアルツハイマー病やALSなどといった他の神経疾患でも関与が疑われている。「この研究で用いた分子モータータンパク質を1分子レベルで観察する手法は、他の神経疾患の解析にも用いることができる」と、研究グループは述べている。

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