GBS患者のBNB破綻、メカニズムは不明だった
山口大学は5月21日、ギラン・バレー症候群の発症原因となる自己抗体として、患者血液中にsnRNP抗体を同定したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科(医学専攻)臨床神経学講座の清水文崇准教授、大学院医学系研究科(保健学専攻)臨床看護学講座の古賀道明教授、総合科学実験センター資源開発分野(遺伝子実験施設)の水上洋一教授、渡邊健司助教らの研究グループによるもの。研究成果は、「Neurology Neuroimmunology & Neuroinflammation」に掲載されている。

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ギラン・バレー症候群(GBS)は、下痢や上気道炎などの先行感染症状後に急性発症する免疫介在性ニューロパチー。ガングリオシドなどの糖脂質に対する抗体や末梢神経に発現する標的分子に対する自己抗体がGBSの病態に関わることが推定されている。GBSの発症には、末梢で産生された自己抗体が血液と末梢神経の間のバリアである血液神経関門(blood-nerve barrier: BNB)を通過して末梢神経内の標的に結合する必要がある。しかし、GBS患者でどのようにBNB破綻が生じるかは、これまで十分に解明されてこなかった。
そこで研究グループは、世界に先駆けて独自に樹立した「ヒトBNB構成条件的不死化血管内皮細胞株」と多数のGBS患者血清から精製した免疫グロブリンG(IgG)を用いて、GBSでのBNB破綻の詳細な分子メカニズムの解明に取り組んだ。
患者由来IgGがヒトBNB内皮細胞株でsnRNPを抑制
RNAシークエンス、ハイコンテントイメージング、BNB機能解析を行ったところ、急性期GBS患者由来の免疫グロブリンG(GBS-IgG)がヒトBNB構成内皮細胞株で、核内低分子リボヌクレオタンパク質(snRNP)を低下させることを見出した。また、snRNPが低下すると炎症を誘導するNF-κBが活性化され、タイトジャンクションであるclaudin-5の低下やCXCR5の増加を介して、BNBの破綻が生じることが明らかになった。
GBS患者の約4割がsnRNP抗体陽性
次に、snRNPを低下させるのはsnRNP抗体であるという仮説を立て、GBS患者血清でのsnRNP抗体陽性率を検討した。その結果、77例中28例(36%)がsnRNP抗体陽性が確認された。一方、他疾患(CIDP、ADEM、多発性硬化症、視神経脊髄炎、髄膜炎、神経変性疾患)や健常者では陰性だった。
また、snRNP抗体陽性GBSでは、snRNP抗体陰性GBSと比べて脳脊髄液タンパク値が高く、BNB破綻を反映するアルブミン透過率が増加していた。
snRNP抗体によってBNB透過性が増加、共培養モデルで確認
さらに、複数のBNB共培養モデルで、snRNP抗体陽性GBS-IgGとsnRNP抗体はBNB透過性を増加させた。GBS-IgGのBNB透過性増加作用は、snRNP抗体を除去すると減少した。
GBSの新たな診断マーカーとして期待
今回の研究によって、GBS-IgGに含まれるsnRNP抗体がBNB内皮細胞のsnRNPを低下させ、NF-κBシグナルを活性化することでclaudin-5の低下、CXCR5の発現増加を惹起し、BNBを破綻させる機序が示唆された。snRNP抗体は、GBSを引き起こす先行感染として知られているEBV、CMV、COVID-19感染で上昇することが知られており、これらの先行感染を契機にsnRNP抗体が一過性に上昇してBNBを破綻させ、GBSを発症させる可能性が考えられた。
「snRNP抗体はGBSの診断マーカーとしての利用が今後期待される。さらに、snRNP抗体にBNB透過性を増加させる作用があることが証明されたことは、snRNPモノクローナル抗体を用いて人為的にBNBを弱め、末梢神経に神経栄養因子やモノクローナル抗体を届けることを可能とする新しい治療法開発につながる可能性がある」と、研究グループは述べている。
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