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RNA分解酵素「Regnase-1」のIL-17経路を介した大腸腫瘍抑制効果を確認-京大

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2025年06月19日 AM09:30

通常の大腸がんの進展における「」の役割は不明だった

京都大学は6月6日、大腸腫瘍の進展に関わる新たな分子メカニズムを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科消化器内科学の井口恵理子博士研究員(研究当時)、髙井淳講師、妹尾浩教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「PNAS(米国科学アカデミー紀要)」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

大腸がんの罹患者数は増加傾向にあり、死亡者数も男性で3位、女性で1位と非常に多いことが知られている。特に、進行がんは治療不応となることも多く、病態解明と新規治療の開発が強く求められている。

大腸には腸内細菌叢が存在するため、免疫環境が特殊であり、Th17細胞と言われるT細胞系のリンパ球が生理的に分布している。Th17細胞はIL-17と呼ばれる炎症性サイトカインを分泌し、腸管上皮細胞の増殖や感染防御などに寄与する一方で、IL-17には大腸がんの進展を促進させる作用があることが知られている。しかし、IL-17関連分子を標的とした治療の臨床応用はまだ行われていない。

RNA分解酵素であるRegnase-1は、主に免疫細胞に発現して炎症性サイトカインであるIL6 mRNAを分解することで、免疫応答の調節を行う分子として最初に報告されたが、その後の研究で、IL-17経路の重要なメディエーター分子であるNFKBIZ mRNAを分解することで、IL-17シグナリングの活性を抑制することがわかっている。このRegnase-1は免疫細胞のみならず、大腸粘膜などの腸管上皮細胞にも生理的に発現しており、潰瘍性大腸炎症例では腫瘍発生に対して抑制的な役割を果たしていることが最近報告された。しかし、大腸上皮でRegnase-1が主に分解標的とする分子や、炎症性腸発がん以外のいわゆる「通常の大腸がん」の進展における役割については明らかになっていなかった。

Regnase-1欠損マウス、大腸腫瘍の有意な増加・増大を確認

研究グループはまず、腸管上皮特異的にRegnase-1を欠損したマウスと、Apc遺伝子変異により大腸腫瘍を自然発生するモデルであるApcMin/+マウスを用いて実験を行った。

両者を交配し、その表現型を解析したところ、Regnase-1を欠損したApcMin/+マウス(Reg1KO-Min)では、Regnase-1を欠損していないApcMin/+マウス(Reg1WT-Min)と比較し、大腸腫瘍の有意な増加と増大が認められた。また、Reg1KO-Minの大腸腫瘍細胞で、増殖活性を表すKi67やリン酸化ERKの発現が上昇していることがわかった。

Nfkbizが大腸上皮細胞におけるRegnase-1の重要な標的分子と判明

次に、Regnase-1がどのようなmRNAを分解しているのかを調べるために、Reg1WT-MinとReg1KO-Minの大腸腫瘍を対象に、網羅的な遺伝子発現解析を行った。その結果、抗菌ペプチドであるDefensinに関わる遺伝子群などに変動が認められたが、中でも、従来Regnase-1の標的分子として知られているNfkbizの発現がReg1KO-Minの大腸腫瘍で有意に上昇していることがわかった。

網羅的解析の結果、IL-17経路の中でも、Nfkbizよりも上流の分子の発現には変動がないにもかかわらずNfkbizの下流分子は大きく変動していたことから、Nfkbizは大腸上皮細胞におけるRegnase-1の重要な標的分子の一つであると考えられた。

Regnase-1はNfkbiz mRNAを分解することで腫瘍抑制的に作用している可能性

腸管内でIL-17経路の活性化には、主に腸内細菌叢が関与することから、Reg1WT-MinとReg1KO-Minに抗生剤を投与し、表現型を解析した。その結果、抗生剤を投与したマウスでは、Reg1WT-MinとReg1KO-Minともに、IL-17の発現低下を伴って、大腸腫瘍が減少・縮小することがわかった。また、IL-17に対する中和抗体を両者に投与して表現型の解析を行ったが、上記と同様の腫瘍抑制効果が得られた。さらに、Reg1WT-MinとReg1KO-MinのそれぞれとNfkbiz欠損マウスを交配させ、表現型を解析したところ、やはり、いずれのマウスでも大腸腫瘍が著明に減少・縮小することがわかった。

以上より、腸内細菌叢によって活性化されるIL-17経路の重要な分子であるNfkbizの発現が大腸腫瘍の進展を促進させる一方、Regnase-1はNfkbiz mRNAを分解することで腫瘍抑制的に作用している可能性が示唆された。

DMFはRegnase-1を安定化しIL-17経路を抑制、ERKリン酸化を低下させ大腸腫瘍抑制

Regnase-1を標的とした新たな治療を考案するにあたり、Dimethyl Fumarate(DMF)という薬剤に着目した。DMFは米国食品医薬品局で多発性硬化症や乾癬(いずれも病態にIL-17経路が関与すると言われている)に対する治療薬としてすでに認可されており、Regnase-1のリン酸化を阻害してその発現を安定化させる作用があると報告されている。DMFの大腸上皮細胞に対する作用について、まず細胞培養実験で検討を行った。大腸がん細胞株であるHT29細胞にIL-17を加えると、Regnase-1発現は低下し、Nfkbizとリン酸化ERKの発現が上昇した。一方、DMFを添加して同様の実験を行ったところ、Regnase-1の発現は維持され、Nfkbizとリン酸化ERKの発現は抑制された。次に、マウスの大腸上皮細胞から作成したオルガノイドを用いて同様の検討を行った。Reg1WT-Minの大腸オルガノイドに対してDMFを加えると、リン酸化ERKの発現は抑制されたが、Reg1KO-Minの大腸オルガノイドでは、DMFによるリン酸化ERKの発現抑制効果が認められなかった。

続いて、DMFのマウス投与実験を行った。野生型マウスにDMFを投与すると、細胞実験の結果と同様に、Regnase-1の発現が維持され、Nfkbizとリン酸化ERKの発現が低下することを確認した。そこで、Reg1WT-MinとReg1KO-MinにDMFを投与して、その表現型を解析したところ、Reg1WT-MinではDMF投与により、Ki67陽性細胞の減少やNfkbiz・リン酸化ERKの発現低下を伴って、大腸腫瘍が著明に減少・縮小したが、Reg1KO-MinではDMFを投与してもNfkbizは減少せず、抗腫瘍効果も認められなかった。これらの結果から、DMFはRegnase-1の発現安定化を介してIL-17経路の活性化を抑制し、リン酸化ERKなどの増殖シグナルを低下させ、大腸腫瘍抑制効果を示すと考えられた。

Regnase-1< mRNA分解<IL-17経路制御<大腸腫瘍抑制、ヒト検体とDBで確認

最後に、ヒト大腸がんにおけるRegnase-1とNFKBIZの発現の相関や、予後との関連についての解析を行った。京都大学医学部附属病院で内視鏡的もしくは外科的切除を行った11例の大腸腫瘍症例の組織検体を用いて免疫染色による解析を行ったところ、多くの症例では非腫瘍部よりも腫瘍部でRegnase-1が強く発現しており、NFKBIZの発現は低く抑えられていたが、Regnase-1の発現が低い腫瘍ではNFKBIZの発現が高く、両者は逆相関する傾向にあった。ある症例では腫瘍内で部分的にRegnase-1の発現が低くなっていたが、そこではNFKBIZの発現が特異的に上昇していた。

次に、The Cancer Genome Atlasと呼ばれるデータベースに公開されている大腸がん379症例の網羅的遺伝子発現データを解析し、IL-17の発現が高い68症例を選出した。これらをRegnase-1高発現群と低発現群に分け、生存率を比較したところ、Regnase-1低発現群で全生存率・無増悪生存率とも有意に低いことがわかった。以上より、Regnase-1はNfkbiz mRNAの分解を介してIL-17経路を制御し、大腸腫瘍の発育を抑制することが明らかとなった。

Regnase-1を標的とした新規治療薬の開発研究推進、他の腫瘍への役割も調べる予定

今回の研究により、Regnase-1のIL-17経路を介した大腸における抗腫瘍効果が明らかになった。「今後は、すでに米国で認可されているDMFを含め、Regnase-1を標的とした新たな治療薬の開発研究を進めたいと考えている。また、肝臓・胆道・膵臓領域のがんにもIL-17が関与することが報告されており、これらの腫瘍におけるRegnase-1やNFKBIZの役割についても並行して研究を進める予定だ」と、研究グループは述べている。

 

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