合併症の術後脱臼を防ぐ外旋作用の筋別貢献を定量比較した研究はなかった
富山大学は6月20日、人工股関節が脱臼しやすい深屈曲位(75°以上)において、「外閉鎖筋」が強い脱臼抵抗力を発揮することが判明したと発表した。この研究は、同大学学術研究部医学系 整形外科・運動器病学講座 伊藤芳章助教および川口善治教授、北海道千歳リハビリテーション大学健康科学科 鈴木大輔教授、札幌医科大学生体工学・運動器治療開発講座 名越智教授(当時)らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Orthopaedic Research」に掲載されている。

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人工股関節置換術は、股関節疾患に対して高い治療効果を示す一方、術後脱臼という合併症が一定の頻度で発生する。後方脱臼は、日常生活の動作中に生じやすく、その多くは股関節を深屈曲した状態で内転・内旋位になることで発生しやすくなる。脱臼予防のためには、股関節屈曲時に内旋運動に抵抗する力(股関節を外旋させる作用)が求められる。
今回の研究では、股関節後方の奥深くにある小さな筋肉の集まりであり、太ももを外側に回す動きを担う「短外旋筋群」の中でも、どの筋が最も大きな外旋トルク(脚を外旋するときに筋肉が発揮する力の強さ)を生み出すかを明らかにするとともに、術後脱臼の予防のため温存すべき筋を示し、手術における一定の基準を確立することを目的とした。これまでの研究では、短外旋筋群全体の機能的役割については明らかにされていたが、脱臼を予防する外旋作用の大きさの観点で各筋の貢献度を定量的に比較した研究はなかった。
深屈曲位での外旋トルクは「外閉鎖筋」が最大、走行優位性も明らかに
今回の研究では、股関節の屈曲角度を変化させながら、各筋の外旋トルクを筋走行と筋力の要素を再現して三次元的に計測することにより、脱臼しやすい深屈曲位(75~105°)で外閉鎖筋が最大の外旋トルクを発揮することを世界で初めて示した。
遺体由来の9体15股関節を用い、股関節の屈曲角度に応じて短外旋筋群(梨状筋、内閉鎖筋、conjoined tendon、外閉鎖筋)が生み出す外旋トルクを測定したところ、梨状筋、内閉鎖筋、およびconjoined tendonの外旋トルクは股関節屈曲15°でピークに達し、屈曲が進むにつれて減少した。一方、外閉鎖筋の外旋トルクは股関節屈曲に伴い増加した。特に股関節屈曲75°以降で外閉鎖筋が他の筋よりも優位に高い外旋トルクを発揮することが明らかになった。
また、外閉鎖筋のみ、深屈曲位においてもその走行方向が回旋軸に対して直交し後方に位置したままであるため、より効率的に外旋モーメントを生み出す構造的特性を有していることがわかった。股関節全置換術は短外旋筋群を切離・縫合する術式が一般的だが、今回の結果は外閉鎖筋の選択的温存が術後の脱臼予防に極めて有効である可能性を示唆しており、今後の術式設計における重要な知見となることが期待される。
手術法の改良により、より安全な人工股関節の提供に期待
今後、短外旋筋の中でも外閉鎖筋の解剖学的位置と力学的特性を考慮した手術法の改良により、より安全かつ安定した人工股関節の提供が可能になると考えられる。「今回の研究は股関節の深屈曲位における筋機能に注目したものであり、今後は関節包や靱帯との相互作用を含めた解析や、術後患者における臨床的検証が必要」と、研究グループは述べている。
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