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エアコンを適切に使えず熱中症で死亡は16.4%、東京23区の調査結果-東大ほか

読了時間:約 3分42秒
2025年07月08日 AM09:30

熱中症発生リスクをより具体的にするため、関与する生活様式や気象情報を詳細に解析

東京大学は6月20日、2013~2023年の間に東京都23区において熱中症で亡くなった方々(1,447症例)の分析結果(中間報告)を発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科の橋本英樹教授、東京都監察医務院の林紀乃院長、浦邉朱鞠監察医の研究グループによるもの。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

2023年6~8月は世界平均気温が最高を記録し、史上最も暑い夏とされた。日本も例外ではなく、東京都心をはじめ各地で猛暑日日数や連続真夏日日数が更新された。熱中症研究は世界各地で取り組まれており、熱中症患者数、熱中症死亡者数、気象条件、人口、都市化指数、地区のエアコン普及率などをもとに発生要因について検討されている。しかしながら、その多くは熱中症患者、熱中症死亡者以外を含む地方自治体が公表する統計データを使用しており、実際に熱中症を生じた事例に限定して背景情報を検討した研究はほとんどみられない。今回の研究は、熱中症死亡者の背景データと気象観測データを用いて、熱中症発生に関与する生活様式、気象状況をより詳細に解析することで、熱中症発生リスクをより具体的にすることを目的とした。

熱中症で死亡した1,447症例を抽出し、検案・解剖資料を分析

研究グループは東京都監察医務院症例データベースにおいて、2013年1月~2023年9月までの間に記載されていた症例のうち、死因統計としてICD10コード(国際死因分類)がT67(熱および光線の作用による死因)のもの1,447症例を抽出した。データ項目は、検案及び解剖資料をベースに、発見日時、推定死亡日時、発見時の状況として発見場所(屋内外)、住居形態、家族構成(一人暮らしか否かなど)、経済状況(電気・ガス・水道といったライフラインが切られていなかったなど含む)、エアコンの有無や扇風機の使用状況、室温、併存症の有無(残された薬手帳などから推測する場合も含む)など、取得できた限りの情報として報告されたもの。ただし、各項目の報告は義務化・標準化されているわけではないため、過少報告の可能性がある。

また今回発表した範囲は記述統計のみ。現在、公開気象データ(ERA5-LAND)と結合のうえ、気象条件と死亡リスクの関連についてCase-crossover designにより、分析が進行している。

屋内死亡例1,319件、10%にエアコン故障、6.5%にエアコン不適切設定の報告

死亡場所は、屋内が1,319件(うち13件はサウナで発生)、屋外が118件、その他が10件だった。死亡発生時期は、サウナでの発生例を除けば、6~8月に98%の症例が集中していた。年別では、比較的過ごしやすかった2016~2017年は年間発生数が30~35件だったが、2020年は250件、さらに2022年は258件、2023年も200件(9月まで)と、近年の温度上昇を反映し死亡件数は高止まり傾向が確認されている。

勤務中に発生した死亡は20例確認されており、このうち屋内が7例、屋外が12例、その他が1例であった。2025年6月より職場での熱中症対策が義務化されたことを受け、こうした事例がさらになくなることが期待される。

屋内死亡例(サウナ13例、勤務中7例、不詳4例を除く1,295例)では、男性746例中528例(70.8%)、女性549例中332例(60.5%)が一人暮らしであった。男女合わせて60代以上の一人暮らしが、死亡症例の60.1%を占めていた。

また、屋内死亡例のうち581例(44.9%)でエアコンがオフ、381例(29.4%)でエアコンが設置されておらず、129例(10.0%)ではエアコンが故障と報告されていた。さらに84例(6.5%)ではエアコンがオンであったと報告されていた(残る120例については不詳)。

エアコン設定不適切の症例のうち79.8%、一人暮らしまたは高齢夫婦世帯

エアコンがオンであった症例では、発見時の警察の現場検証情報によれば、室温はいずれも高く、設定の問題(28度設定だったが暖房設定だった、送風モードだけだった、掃除モードになったままだった)、機器の問題(設定は冷房になっていたが温風しか出ていなかった、送風口にホコリが詰まっていて送風できていなかった)が報告されていた。エアコンがオンであった症例のうち67例(79.8%)は一人暮らしまたは高齢夫婦世帯で、そのうち17例は生活保護受給世帯、39例は年金・預金生活者世帯であった。

なお、電気・ガス・水道のいずれかのライフラインが差し止めされていたことが確認された症例が29例あった。16例はエアコンがオフに、9例はエアコンの設置なし、4例は不詳であった。

参考までに、屋外での死亡例で就業中だった12例を除く104例のうち、25症例は路上生活または住所不定者(疑い含む)、9症例は徘徊歴などが報告されているなど認知症の疑われるケースや精神疾患の既往を有するケースで、自宅から離れた場所で発見されていた。

熱中症から適切に命を守るためにー地域コミュニティの支え合いが重要

研究グループは今回の研究結果を受け、エアコンを使いこなせない人を取り残さないための対策について提言した。

具体的な対策として、(1)暑くなる前にリモコンの電池の交換、通風口・フィルターなどの掃除をする、(2)知り合いや親族で別居の一人暮らしの高齢者がいる場合、エアコンが機能しているかどうか、リモコンが使えるかを確認する、(3)エアコンの設定について、特に冷房や除湿モードに適切に設定できているか、使い方の説明を行い、必要に応じてメモなどでも伝える、(4)近隣でエアコンの室外機が動いていない、故障しているような音を立てている状況を発見した場合、一人暮らしや高齢者であれば、エアコンがきちんと使える状態なのか声掛けをする、を挙げた。

「昨年以上の猛暑が予想される今夏、コミュニティや近隣での支え合いや目配りを行うことで、熱中症で亡くなる方を減らすことにつながる」と、研究グループは述べている。(QLifePro編集部)

 

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