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子宮頸がん細胞診にスマホ活用、リアルタイムAI診断システム開発-浜松医大

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2025年07月03日 AM09:30

時間や手間のかかる子宮頸がん細胞診、AI診断支援は課題多く普及していない

浜松医科大学は6月19日、子宮頸がんの早期発見に欠かせない細胞診を支える現場のために、革新的なAIモデル「CYTOLONE(サイトロン)」を開発したと発表した。今回の研究は、同大大学院医学系研究科光医工学共同専攻(博士後期課程)の栗田佑希大学院生(再生・感染病理学講座、先進機器共用推進部)、再生・感染病理学講座の目黒史織学内講師らの研究グループによるもの。研究成果は、「Modern Pathology」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

子宮頸がんは早期発見が極めて重要であるが、現在の細胞診検査では細胞検査士が顕微鏡を用い、膨大な数の細胞を一つひとつ目視で観察する必要がある。この作業は時間と手間がかかるうえ、高度な専門知識を要し、多くの医療機関で人手不足や負担増の大きな要因となっている。

近年、AIを活用した診断支援システムの導入が進んでいるものの、多くは「Whole Slide Image(WSI)」と呼ばれるガラス標本全体を高解像度でスキャンしたデジタルデータを前提としている。WSIを生成するには高価なスキャナや大容量ストレージが必要なうえ、スキャンやデータ処理に数分から数十分を要するため、リアルタイムでの判定支援には不向きである。このような機器投資や時間的コストは、小規模病院やリソースが限られた地域の医療機関にとって大きな導入障壁となっており、AI診断支援の普及を妨げている。

子宮頸部細胞診に特化したAIモデル開発、撮影画像をそのままリアルタイムで評価

今回の研究では、OpenAIの「CLIP(Contrastive Language-Image Pretraining)」を基盤とし、子宮頸部細胞診に特化したAIモデル「CYTOLONE」を開発した。このモデルは、低倍率の画像と細胞学的特徴の関連性を効果的に学習するために、階層的なラベリング構造(異常、悪性度、Bethesda分類、推定診断)を用いて微調整された。

CYTOLONEの最も画期的な点は、デジタル標本の作成が不要な新しいワークフローを提案していることである。顕微鏡にiPhoneカメラをアダプターで接続し、取得した画像をApple Silicon Macでリアルタイムに評価する仕組みを採用している。これにより、各画像を0.5秒未満でリアルタイムに処理することが可能になった。

開発した「CYTOLONE」、全カテゴリーで精度が大幅に向上

開発したCYTOLONEの性能を既存のモデルと比較評価したところ、すべてのカテゴリーで精度が大幅に向上した。特に、異常を検出する精度は95.8%と高い水準を維持しつつ、より複雑な悪性度分類では92.8%、Bethesda分類では61.5%、推定診断分類では57.5%の精度を達成した。これは、既存モデルと比較してBethesda分類や推定診断分類の精度が2倍以上に向上したことを意味する。

低コストでリアルタイム性の課題も解決

従来のAIが抱えるコストとリアルタイム性の課題を解決し、細胞検査士が顕微鏡観察中にAIのサポートをリアルタイムで受けられるシームレスなワークフローを実現した。このワークフローはリソースが限られた医療環境においても導入しやすく、低コストかつ即時性のある診断支援ツールとしての活用が期待される。

実用化に向け、実際の診断ワークフローにおけるAIの効果を検証予定

CYTOLONEは、細胞検査士の診断効率と精度を向上させる実践的なソリューションを提供する。今後は、今回の研究の成果をさらに実用化するため、さまざまな医療機関からのデータを用いた外部評価を実施し、実際の診断ワークフローにおけるAIの効果を検証していく予定である。また、細胞検査士の負担を軽減するためのワークフロー最適化も継続する。「さらに、AIの診断確信度が低いケースに対しては、大規模言語モデル(LLM)を活用して鑑別診断の候補や追加検査の推奨を提案する機能の導入を検討している。これらの取り組みを通じて、CYTOLONEは細胞診の未来を大きく変革し、医療現場のデジタル化と高精度化に貢献していく」と、研究グループは述べている。

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