発症すると、10年以内に半数が末期腎不全に進行する可能性
ノバルティスファーマは2025年6月12日に、進行性の腎疾患C3腎症に関するメディアセミナーを開催。大阪大学大学院医学研究科腎臓内科学教授の猪阪善隆氏、旭川医科大学内科学講座循環器・腎臓内科学分野教授の中川直樹氏の2氏が、希少疾患であるC3腎症の概要と期待される新薬「ファビハルタ(R)」(一般名:イプタコパン)について、講演した。

C3腎症は、免疫システムの一部である補体経路の異常によって引き起こされる腎疾患で、日本での患者数は200〜300人程度とされる。発症年齢は幅広いが、小児期や青年期に症状が現れることが多いという。
腎臓は、そら豆のような形をした握りこぶし大の臓器で、血液をろ過して老廃物を尿として排出する重要な役割を担う。腎臓の中にはネフロンと呼ばれる糸球体と尿細管のセットが約100万個存在し、糸球体で血液をろ過する。C3腎症では、補体成分であるC3タンパク質が糸球体に異常に沈着することで腎臓に炎症が誘発され、腎機能が低下していく。
猪阪氏によると、「約半数の患者で、診断から10年以内に透析や腎移植が必要となる末期腎不全へと進行すると報告もある」といい、予後がきわめて不良な疾患だ。
診断は複雑で、腎臓専門医でも見逃すことが珍しくない
C3腎症の診断は複雑で、腎臓専門医でも見逃すことが珍しくないという。初期の糸球体腎炎と共通する血尿、蛋白尿、高血圧、低補体血症といった症状を呈することがあり、類似疾患との鑑別が難しく、臨床初見や病理初見を統合して判断する高度な専門性が求められる。治療法には支持療法や免疫抑制療法などがあるが、猪阪氏は「これらの治療には明確なエビデンスがなく、根本原因を標的とし、腎臓の健康を守りながら透析や移植への移行を遅らせることができる治療薬が求められてきた」と述べた。
イプタコパンの投与で尿蛋白が減少
中川氏は、2025年5月にC3腎症に対する治療薬として承認されたイプタコパンについて解説した。同薬は、補体第二経路において重要な役割を担うB因子に特異的に結合し、その活性を阻害することで、C3転換酵素の働きを抑制するもので、補体第二経路の過剰な活性化と、C3の糸球体への沈着が抑制され、腎臓の炎症や進行性の腎障害の改善が期待されている。
中川氏は承認の根拠となった国際共同第III相試験APPEAR-C3Gについても紹介。同試験では、腎移植を受けていないC3腎症成人患者74例を対象に、イプタコパンの有効性と安全性を検証。主要評価項目である投与6か月時の尿蛋白(UPCR)のベースラインに対する比において、イプタコパン群はプラセボ群と比較して有意な尿蛋白の減少が認められ(35.1%減少、P=0.0014)、その減少効果は12か月時点まで持続することが確認された。
安全性プロファイルも良好だが、投与前のワクチン接種が必要
また、副次評価項目の推算糸球体濾過量(eGFR)のベースラインからの変化量は、プラセボ群で低下傾向が見られた一方、イプタコパン群ではeGFRの改善傾向が認められ、探索的項目のeGFR slopeの平均値についても、イプタコパン投与前は年間7.569mL/分/1.73m²低下したが、投与後には年間1.444mL/分/1.73m²の増加へと変化し、有意に改善していた(P<0.0001)。
安全性プロファイルも概ね良好であり、重篤な有害事象や投与中止、死亡に至った有害事象は認められなかったが、補体第二経路を阻害することから、髄膜炎菌、肺炎球菌、インフルエンザ菌などの重篤な感染症を発症するリスクが懸念され、投与前のワクチン接種が求められるという。
中川氏は、「イプタコパンの登場により、C3腎症患者さんにおける病状の進行抑制や腎機能維持に新たな可能性をもたらした」と述べ、期待を寄せた。
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