世界的に使用されている「S1P受容体調節剤」
札幌医科大学は9月18日、世界的に使用されている潰瘍性大腸炎(UC)治療薬「Ozanimod(オザニモド)」について、日本人患者198人を対象とした大規模臨床試験「J(Japan)-True North試験」を実施し、その成果を発表した。この研究は、同大医学部内科学講座 消化器内科学分野の仲瀬裕志教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Gastro Hep Advances」に掲載されている。

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UCは炎症性腸疾患の一つであり、日本において患者数が増加傾向にある。主に大腸粘膜を直腸から連続性に侵し、しばしばびらんや潰瘍を形成するびまん性非特異性炎症である。その発症原因はいまだに明らかとなっていない。UCの治療は重症度や罹患範囲・QOLの状態等を考慮して、活動期には寛解導入治療を行い、寛解導入後は寛解維持治療を長期にわたり継続する必要がある。長期予後改善の観点から、粘膜治癒、さらには組織学的寛解を目指す戦略が提唱されている。また、患者の生活のスタイルに合った薬剤選択も重要となっている。
オザニモドは、S1P1とS1P5受容体に選択性を有し、特にリンパ球表面のS1P1に作用することで、リンパ球を末梢リンパ組織内に滞留させ、炎症部位へのリンパ球遊走を抑制すると考えられている。同薬剤は米国で2020年3月に多発性硬化症、2021年5月にUCの治療薬として承認を取得している。
オザニモド群、プラセボに比べ12週時点での臨床的反応達成割合が有意に「高」
J-True North試験は日本人のUC患者のみを対象としたオザニモドの有効性および安全性を検証する国内第2/3相試験。同試験では2019年6月3日~2023年8月28日までに、日本人の中等症から重症のUC患者計263人が登録・スクリーニングされた。このうち198人が無作為化され、65人がプラセボ群、68人がオザニモド0.46mg群、65人がオザニモド0.92mg群に割り付けられた。今回の主要評価項目は、オザニモドのプラセボと比較した有効性を投与12週時点の臨床的改善によって検証した。
その結果、オザニモド投与群はプラセボ群と比較して、12週時点で臨床的反応を達成した患者の割合が有意に高かった(オザニモド0.46mg:52.9%、P=0.0158、オザニモド0.92mg:61.5%、P=0.0006、対プラセボ:32.3%)。
オザモニド群、臨床的寛解・内視鏡的改善・粘膜治癒達成率いずれも高、安全性も確認
副次的評価項目においても同様の結果が認められ、オザニモド投与群はプラセボ群と比較して、12週時点で臨床的寛解、内視鏡的改善、粘膜治癒の達成率が高いことが示された。有効性は全ての評価項目において、52週目まで維持された。両用量のオザニモドは良好な忍容性を示し、寛解導入、維持期において予期せぬ安全性のシグナル(有害事象)は認められなかった。
同大規模臨床試験は、中等度~重度の活動性UCを有する日本人患者において、1日1回経口投与のオザニモドの有効性と安全性を実証したと言える。また、 アジア人におけるオザニモドの有効性と安全性が検証されたのは今回が初となる。
オザニモドによる「炎症性発がん」抑制効果についても今後期待
世界的に使用されるオザニモドを用いて日本人UC患者単独での臨床試験を成し得たことは、海外へ大きなインパクトを与えた。UC患者の病態は多様性に富むため、さまざまな作用機序を有する薬剤の使用が可能となることは、患者にとって福音である。
今後の課題として、オザニモドのUC治療における位置付けがある。長期の安全性については海外でのデータがすでに報告されているが、日本における長期の安全性データ集積も必要となってくる。さらに、S1Pのシグナルが炎症性発がんに寄与するという基礎研究データがあり、オザニモドによる炎症性発がん抑制効果について、今後の期待がかかっている、と研究グループは述べている。
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