要介護の主な原因の一つ「フレイル」、血液検査法や筋肉機能回復の治療法は未確立
神戸医療産業都市推進機構(FBRI)は6月11日、フレイル患者の新しい血液マーカーを発見するとともに、白血球の今まで知られていなかった役割を明らかにしたと発表した。今回の研究は、FBRI先端医療研究センター脳循環代謝研究部の田口明彦部長、ドイツ・フラウンホーファー研究機構、神戸大学らの研究グループによるもの。研究成果は、「Aging」にオンライン掲載されている。

フレイルは、ロコモティブシンドロームとも呼ばれ、加齢とともに筋肉などの衰えが進んでいく病態。2020年4月からの健診で、後期高齢者を対象に要介護のリスクがあるかどうかをチェックする「後期高齢者の質問票」が導入された。フレイルは要介護の主要な原因の一つであり、フレイルの病態を反映する血液検査や、筋肉の機能を回復させる治療法の確立が、高齢化社会での重要な課題となっている。
白血球のエネルギー代謝に関連する遺伝子発現とフレイル症状との関連を示唆
今回の研究では、高齢者20人(平均年齢78.3歳)の血液検査の結果とフレイル健診で用いられている「後期高齢者の質問票」との相関を分析し、さらに、それらが相関する理由を明らかにするためのマウス動物実験を行った。
その結果、フレイル症状を呈している高齢者に対する血液検査において、白血球のエネルギー代謝に関連する複数の遺伝子の発現が増加していた。また、フレイル予防に効果がある定期的な運動を行っている高齢者に対する血液検査において、白血球のエネルギー代謝に関連する複数の遺伝子の発現が低下していた。
白血球の新たな役割が判明、血管内皮細胞などに水溶性低分子を供与
さらに、マウスを用いた実験により、末梢血中を循環している白血球は、血管内皮細胞や組織幹細胞に、ギャップ結合を介して水溶性低分子を直接供与しているという白血球の今までに知られていなかった役割が判明した。
さまざまな加齢関連疾患に対する検査法の確立・普及を目指す
これらの結果より、1)フレイルを血液検査で診断できる可能性、2)運動などフレイル予防や改善の効果を血液検査で評価できる可能性、3)白血球には今まで知られていなかった役割がある可能性を見出した。また、白血球が、ギャップ結合を介して血管内皮細胞や組織幹細胞に物質を供与していることに関する発見は、高齢者における慢性炎症の制御に大きな進展をもたらす可能性が期待される。
「今後は、より多くの高齢者に対して血液検査を行うことにより、フレイルを含むさまざまな加齢関連疾患に対する検査法としての確立・普及を目指していく」と、研究グループは述べている。
▼関連リンク
・神戸医療産業都市推進機構 プレスリリース


