日本では子どものウェルビーイングを多角的に測定するための方法がなかった
東邦大学は6月6日、思春期の子どものウェルビーイングの測定において、日本語版Mental Health Continuum短縮版(MHC-SF)の信頼性と妥当性を検証し、その結果を発表した。この研究は、同大医学部精神神経医学講座・社会実装精神医学講座 根本隆洋教授らのグループによるもの。研究成果は、「Psychiatry and Clinical Neurosciences Reports」に掲載されている。

画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)
近年、世界的にも子どもから高齢者までウェルビーイングの重要性が注目されており、日本においても同様に、多くの場面でウェルビーイングへの関心が高まっている。特にCOVID-19の流行以降、思春期の子どもの精神的健康の問題が国内外を問わず深刻化しているが、ウェルビーイングはそのリスクを減らすことが知られている。そのため、どのようにすれば、ウェルビーイングを高めていくことができるのかを検討していくことは急務となっている。しかし、日本では子どものウェルビーイングを多角的に測定するための方法がなかった。
思春期の子どものウェルビーイング測定に日本語版MHC-SFが有効なのか検証
MHC-SFは、米国の社会学者であるコーリー・キーズ博士らが開発した40の項目から構成される「Mental Health Continuum-Long Form(MHC-LF)」を基とした14項目の短縮版で、現在までに20以上の言語に翻訳され、38以上の国で使用することが可能となっている。MHC-SFの特徴としては、精神的健康を構成するウェルビーイングを感情的ウェルビーイング、心理的ウェルビーイングおよび社会的ウェルビーイングの3つの要素に分類していることが挙げられる。さらに、MHC-SFを用いることで、精神的健康をFlourishingとLanguishingとその中間の状態の3段階に分けることが可能になる。
Flourish(フラーリッシュ)は「繁栄する」「栄える」と訳され、Flourishingは心理的に活き活きとした状態を指す。それとは対照的にLanguish(ラングイッシュ)は、「衰える」「元気がない」と訳され、Languishingは活力がない状態を指す。
研究グループは今回、精神的健康およびウェルビーイングを評価するために用いられる日本語版MHC-SFが、思春期の子どもの精神的健康およびウェルビーイングを評価することにも適応可能か、MHC-SFの信頼性と妥当性について検証した。
15~18歳の男女1,558人を調査した結果、MHC-SFが原版と同様の3因子構造と判明
研究では、15~18歳の男女1,558人を対象に質問紙を用いた調査を行った。構造的妥当性を検証するために確認的因子分析を行った結果、MHC-SFは原版や他言語翻訳版の結果と同様に、3因子の構造を示した。また、内的一貫性や構成概念妥当性は十分な結果を示し、男女別や年齢別での検証においても、同じ構造を持っていることが判明した。
日本の思春期の子どもの精神的健康割合はFlourishing 27.6%、Languishing 20.2%
また、日本の思春期の子どもの精神的健康の割合として、Flourishingは27.6%、Languishingは20.2%だった。
MHC-SFは、精神的健康やウェルビーイングを評価することができるため、今後ポジティブ心理学やポジティブ精神医学に関連する研究分野だけでなく、健康に関係するさまざまな研究フィールドにおいて、使用することが可能になると見込まれる。
思春期の子どもから高齢者までの精神的健康・ウェルビーイングの年代別評価が可能に
日本ではこれまでに60歳以上の高齢者に対するMHC-SFの妥当性と信頼性が検証されている。そのため本研究結果をふまえると、日本においては思春期の子どもから高齢者までの精神的健康およびウェルビーイングを年代別に評価することが可能になったと言える。さらに、MHC-SFを用いることで他国の思春期の子どもとの比較が可能であることから、日本の思春期の子どもの精神的健康およびウェルビーイングの現状を多角的に評価することが可能になると考えられる。本尺度は、幅広い研究分野で使用することが期待される、と研究グループは述べている。
▼関連リンク
・東邦大学 プレスリリース