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抗がん剤ヒドロキシウレア、小胞体還元ストレス緩和作用を発見-名古屋市大ほか

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2025年07月14日 AM09:30

DNA複製阻害剤として知られるヒドロキシウレア、小胞体への影響に関する研究はなかった

名古屋市立大学は6月23日、抗がん剤や細胞周期研究に使用されてきた薬剤「ヒドロキシウレア」に、細胞内小器官である「小胞体」の還元ストレス(酸化還元バランスが崩れた状態)を緩和する作用があることを発見したと発表した。この研究は、同大大学院理学研究科の高野佑基氏(博士後期課程大学院生)、中務邦雄教授、奈良先端科学技術大学院大学の木俣行雄准教授、京都産業大学の潮田亮教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Life Science Alliance」オンライン版に掲載されている。


画像はリリースより
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ヒドロキシウレアは、DNA合成酵素リボヌクレオチドレダクターゼ(RNR)を阻害することで細胞のDNA複製を止め、細胞周期をS期で停止させる薬剤として知られている。がんや鎌状赤血球症などへの臨床応用に加え、基礎研究でも細胞周期制御の試薬として長年使われてきた。

近年、この薬剤が細胞内で活性酸素種(Reactive Oxygen Species:ROS)を生成し、より広範な細胞内プロセスに影響を与えている可能性が指摘され始めている。しかしながら、細胞内小器官(オルガネラ)、特にタンパク質の合成と品質管理を担う小胞体への影響はこれまでほとんど研究されていなかった。

小胞体内タンパク質のシステイン残基を酸化、ジスルフィド結合の形成促進作用を持つと判明

小胞体内には、タンパク質のシステイン残基間のジスルフィド結合形成を触媒することで、酸化的フォールディングを促進する必須の酵素「Ero1」が存在する。この酵素の機能が低下した変異株(ero1-1株)では、小胞体タンパク質のジスルフィド結合形成が著しく阻害され、「還元ストレス」状態にある。今回、ero1-1株にヒドロキシウレアを投与すると、その酸化作用によりジスルフィド結合形成を促進させることで、生育阻害や胞体-ゴルジ体間のタンパク質輸送障害といった、還元ストレス由来の表現型が顕著に緩和されることが確認された。

以上の結果から、ヒドロキシウレアは小胞体内の酸化還元バランス(チオール-ジスルフィド恒常性)を調節する薬剤として作用することが明らかになった。

細胞内小器官への影響研究、治療応用・副作用制御に期待

ヒドロキシウレアは、鎌状赤血球症、慢性骨髄性白血病、真性多血症などの疾患に用いられる費用対効果の高い薬剤だが、その薬理作用の詳細や副作用の発現機構はいまだ不明な点が多く残されている。今回の研究成果は、ヒドロキシウレアが小胞体の酸化還元環境を制御する新たな側面を持つことを示した。これにより、これまで「DNA複製阻害剤」として単純に分類されていたその作用に対し、より多角的な理解が求められ、ヒドロキシウレアの新たな治療応用や副作用制御への展開が期待される。

「今回の研究は、ヒトと同じ真核生物である出芽酵母を用いて行われたもの。今後は、ヒト細胞や動物モデルにおいて同様の検証を進めることで、ヒドロキシウレアを活用した新しい治療戦略や、既存薬の再評価(ドラッグ・リポジショニング)の実現が見込まれる」と、研究グループは述べている。(QLifePro編集部)

 

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