血流を伴うRPOC患者に対するレルゴリクスの効果は?
山梨大学は6月5日、流産後の遺残組織の排出促進にGonadotropin-releasing hormone(GnRH)受容体拮抗薬(レルゴリクス)が有効であることを実証したと発表した。この研究は、同大大学院総合研究部医学域の笹津聡子助教、小野洋輔臨床助教、吉野修教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Frontiers in Medicine」にオンライン掲載されている。

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妊娠後の流産や分娩の後に、子宮内に妊娠の組織が一部残ってしまう状態は「retained products of conception(RPOC)」と呼ばれ、全妊娠の約3%にみられる。近年では妊娠年齢の高年化や不妊治療の増加に伴い、その頻度は上昇傾向にある。RPOC患者にはしばしば血流が認められ、性器出血が持続する原因となる。また、組織が子宮内に残っている間は、次回妊娠に必要な正常な子宮内環境が整わず、妊娠に向けた準備ができない。さらに、RPOCの有する血流は豊富なことも多く、突然の大量出血をきたし、時には生命を脅かすこともある。このような背景から、RPOCを安易に外科的に除去することは、大量出血のリスクが高く、また、出血時の手術は妊娠に必要な正常な子宮内膜を損傷する可能性もある。このため多くの場合は保存的に経過を観察し、自然な排出を期待する方法が取られる。しかし、将来妊娠を希望する患者にとっては、RPOCの治療が完了しなければ次の妊娠に進むことができない。そのため、長期間経っても、自然排出が得られない場合には、外科的処置が必要になることもあり、その際には、できる限り低侵襲な治療が求められる。
近年は、RPOCに対して子宮鏡下経頸管切除術などが行われているが、出血リスクが高い場合や、すでに活動性出血がある場合には、子宮への血流を一時的に遮断する血管内治療(カテーテルによる動脈塞栓術など)が必要になることがある。ただし、これらの処置は、処置後の子宮内癒着、妊娠率の低下、流産率の上昇などの合併症を伴うため、妊孕性を温存したい患者にとっては、可能な限り回避したい治療法だ。このように、挙児希望のある患者が将来の妊孕性を損なうことなくRPOCを安全に治療するためには、RPOCへの血流を効果的に制御し、出血リスクを低減させることが重要な課題と言える。
最近、内服可能なGnRH受容体拮抗薬であるレルゴリクスが、子宮筋腫の治療薬として導入された。同剤は、脳の下垂体にあるGnRH受容体に作用し、卵巣からのエストロゲン分泌を抑制する。エストロゲン分泌が低下すると子宮への血流量も減少するため、レルゴリクスの投与によりRPOC組織への血流も減少する可能性があると考えられる。そこで研究グループは今回、血流を伴うRPOC患者に対してレルゴリクスを投与し、臨床的効果を検討した。
97例の患者を内服群・非内服群に分け、RPOCの大きさや経過などを比較
同研究は後ろ向き観察研究として、山梨大学医学部附属病院倫理委員会の承認を得て実施された。また、2014年以降に妊娠22週未満の自然流産または人工妊娠中絶後にRPOCが認められた97例の患者を対象とした。
RPOCに血流を認めた症例に対して、経腟超音波でRPOCの大きさ(最大長径)を測定し、2週間ごとに経過を評価した。4週間以内に血流の減少や大きさの縮小が見られない場合には、外科的治療を検討した。2022年からは、新たに経口GnRH受容体拮抗薬(レルゴリクス40mg)の内服治療を開始し、14日ごとに超音波で効果を評価した。
RPOCの血流が消失すれば治療を終了し、月経の再開を待った。血流が残る場合は最大4週間まで内服を継続した。97例の患者は、GnRH拮抗薬を服用した20例(内服群)と服用していない77例(非内服群)に分けられた。非内服群では、経過観察または外科的処置が臨床判断で選択された。
内服群の多くでRPOCの血流減少・消失/サイズ縮小、手術症例低、月経再開期間短縮
内服群では、20例中6例が血流や大きさの改善を認めず、外科的治療を必要とした。一方で、内服群の多くでRPOCの血流は減少または消失し、RPOCのサイズも有意に縮小した。また、手術が必要となった症例の割合も非内服群より有意に低く、治療後に月経が再開するまでの期間も短縮されていた。
GnRH拮抗薬の使用が外科的介入のリスクを有意に低下させることを確認
副作用としては、内服群のうち2例に軽度のむくみやイライラがみられたが、いずれも自然に軽快し、治療を中止した患者はいなかった。さらに、出血量が多い場合には子宮動脈塞栓術が行われたが、内服群では輸血や子宮動脈塞栓術を要した症例は1例もなかった。GnRH拮抗薬の使用は、外科的介入のリスクを有意に低下させることが確認された。
有効性・安全性を明らかにするためには、今後の臨床データの蓄積が重要
今回の研究では、レルゴリクスを使用した全ての患者において、子宮内の血流が減少または消失し、遺残組織の縮小が認められた。その結果、外科的処置の必要性が減少し、出血のリスクも軽減された。特に、将来の妊娠を希望する患者にとっては、身体への負担が少なく、子宮内膜を温存できる治療法として期待される。今後は分娩後の胎盤遺残など、他のRPOCに対する適応についても検討していく必要がある。
一方で、レルゴリクスは現在、RPOCに対する治療薬としては保険適用外であり、患者に対しては治療方針や費用について十分な説明とインフォームドコンセントが必要である。また、RPOCは依然として出血リスクの高い病態であり、特に遺残組織の量が多い症例では、レルゴリクスの内服のみでは十分な治癒が得られない可能性もある。
「今後は手術とレルゴリクスの併用などを含め、RPOCに対する適切な管理方法を確立していくことが重要である。そして、その有効性と安全性をさらに明らかにするためには、今後の臨床データの蓄積が求められる」と、研究グループは述べている。
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・山梨大学 プレスリリース