膵がんのリスク因子とされる脂肪膵、因果関係を明らかにする研究は不十分
東京大学医学部附属病院(東大病院)は6月4日、脂肪膵を有する患者は膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)由来がんではなくIPMN併存がんを発症するリスクが高いことを明らかにしたと発表した。今回の研究は、東大病院消化器内科の大山博生助教、浜田毅助教、藤城光弘教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Gastroenterology」に掲載されている。

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脂肪膵は膵炎や糖尿病に加え、膵がんのリスク因子でもあることが近年提唱・報告されてきた。しかし、脂肪膵が原因となって膵がんが発生しているのか、膵がんによる膵実質の変化で脂肪膵を来しているのか、という脂肪膵と膵がんの因果関係は明確ではなかった。また、脂肪膵を定量的に評価する報告が限られているため、脂肪膵は診断基準もいまだに定まっていないという未開の領域だった。
大規模MRI解析を実施、脂肪膵がIPMN併存がんのリスク因子であると判明
IPMNは膵がんの高リスク群であり、IPMN由来がんとIPMN併存がんが同程度の頻度で発生することが知られている。今回研究グループは、IPMN長期経過観察についての多数の報告の経験に加え、IPMNの大規模コホートにおけるMRI検査を活用することで、IPMNからの膵がん発生と脂肪膵との関係を世界で初めて明らかにした。
IPMNの長期経過観察における初回のMRI検査結果(T1強調画像)を患者間で比較したところ、後にIPMN由来がんを発症した症例は、膵がんを発症しなかった症例と脂肪膵の程度に有意な差を認めなかったのに対し、後にIPMN併存がんを発症した症例は、膵がんを発症しなかった症例よりも当初から脂肪膵を伴っていたものが有意に高い割合を占めた。さらに、脂肪膵が高度になるほどIPMN併存がんのリスクは高くなり、最も高度な脂肪膵のグループは、最も脂肪膵の程度が低いグループと比較し、約5倍のリスクがあることが明らかとなった。これは、患者の年齢と性別を一致させて各群を比較し、さらにBody mass index(BMI)などの要素を調整した上での数値であり、脂肪膵が独立したIPMN併存がんのリスク因子であることを意味している。
脂肪膵と通常型膵がんの関係を定量的に証明、膵がんの予防・早期発見につながると期待
IPMNの内部からがん化が起こるIPMN由来がんと異なり、IPMN併存がんはIPMNと離れた膵実質から発生するものであり、通常型膵がん(一般的な膵臓がん)と同様の病態と考えられている。このため、今回の研究の結果は、脂肪膵が通常型膵がんのリスクであるという学説を定量的な手法で支持するものとなった。
「今回の研究は、膵がんのリスクであるIPMNの経過観察の指針を大きく助けるものであり、さらには一般的な検診のレベルにおいても難治がんとして知られている膵がんのリスク層別化や早期発見に寄与することが期待される」と、研究グループは述べている。
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