DCSによる非侵襲・連続的な皮膚・筋血流モニタリングの実現可能性を検証
明治大学は6月3日、近赤外光の散乱を利用して体内の微小な血流速度を非侵襲で測定する「拡散相関分光法(Diffuse Correlation Spectroscopy:DCS)」を用いた非侵襲的・連続的な微小循環不全のモニタリング技術の実証に成功したと発表した。この研究は、同大大学院 理工学研究科の黒野晃暉氏(博士前期課程2年)、同大理工学部電気電子生命学科の小野弓絵教授と、国立循環器病研究センター研究所の松下裕貴医師、朔啓太室長らとの共同研究グループによるもの。研究成果は、「Intensive Care Medicine Experimental」に掲載されている。

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ショックとは、さまざまな理由で臓器に十分な血液が届かなくなる、命に関わる危険な状態。ショック状態では、心臓に近い太い血管の血圧などが一見正常に見えても、実際には酸素や栄養を細胞に届ける細い血管(微小循環)の働きが早い段階から悪くなっている。そのため、この微小循環の状態を正しく見極めることが不可欠だ。現在、ショック患者のモニタリング法として、乳酸値、皮膚温と中心温の較差(ΔT)、混合静脈酸素飽和度(SvO2)、中心静脈-動脈二酸化炭素差(PCO2ギャップ)などが用いられているが、侵襲性、時間的遅れ、継続的なモニタリングの困難性といった課題がある。これらの背景から、リアルタイムかつ非侵襲的に微小循環を評価できる新たな指標の開発が強く求められてきた。
DCSは、近赤外光の散乱パターンを解析することで、深部組織内の微小な血流速度を連続的・非侵襲的に測定できる光学技術だ。研究グループは今回、DCSを用いて皮膚表面から深部組織内の微小血管内血流速度をBFIとして測定し、従来の臨床指標と比較・検証した。
BFI/rBFIは複数の既存微小循環指標と有意に相関、早期の末梢組織の血流低下も可視化
犬モデルの血液を段階的に脱血して出血性ショックを誘導し、その後、同量の輸血で回復を試みるという実験プロトコルを施行したところ、BFIは出血量の増加に伴って顕著に減少し、輸血により回復することが明らかとなった。さらに、BFIはΔT、SvO2、PCO2ギャップ、乳酸値と統計学的に有意な相関を示し、rBFI(基準値に対する相対値)35.5%未満が乳酸上昇(22.5mg/dL以上)を高い特異度(100%)で予測できることも示された。また、従来の微小循環指標では捉えにくい早期の末梢組織の血流低下も可視化された。
重症患者の早期微小循環不全の診断と治療判断への貢献目指しヒト臨床への応用目指す
今回の研究は、微小循環不全をリアルタイムで可視化する新たな技術的ブレークスルーであると言える。重症患者の早期微小循環不全の診断と治療判断が速やかに行えれば救命率向上が期待できる。また、微小血管内血流を非侵襲・連続的に測定可能な医療機器開発にもつながる。さらに、心原性ショックや敗血症性ショックなど、他の重篤な循環不全への応用の可能性もある。「今後は、ヒト臨床での実用化、ならびに近赤外分光法(NIRS)など他手法との統合的活用により、集中治療現場への導入が期待される」と、研究グループは述べている。
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