水泳選手の白血病公表で骨髄ドナー登録「増」など影響あり、診断数への影響は?
名古屋市立大学は6月3日、全国がん登録を用いて口腔・咽頭がんの月別診断数について分析を行い、著名人の口腔がん公表後に口腔がんの診断数が約1.5倍に急増していることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科の小山史穂子寄附講座講師(地域医療連携推進学)らの研究グループによるもの。研究成果は、「Oral disease」に掲載されている。

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これまで、著名人による健康関連の情報公開の後、スクリーニング検査の受診率や情報収集の増加といった社会影響について研究が実施されてきた。例えば、ハリウッド女優が特定の遺伝子変異があることを知り、予防的両側乳房切除術を受ける決断をしたことを公表したとき、がん遺伝子クリニックへの紹介は2~3倍に増加したことや、日本では、水泳選手が白血病の診断を公表した際に、骨髄ドナー登録の増加が見られたことが先行研究によって明らかになっている。しかし、がん公表後の診断数への影響について議論した研究は少ない。
著名人の口腔がん公表前後で月別診断数を検討、公表1か月後に1.5倍に増加
そこで今回の研究では、2019年2月に著名人が口腔がんであることを公表した前後の口腔がん月別診断数について、検討を行った。
口腔・咽頭がんについて、月別診断数の推移を観察したところ、口腔がんの著名人ががんを公表した2019年2月前後で診断数が急増していることが明らかになった。2019年1月の全国の口腔がん診断数が784件なのに対して、2019年3月では1,195件と約1.5倍であった。詳細な分析によって男性、70歳代、舌および口腔底、がんの進展度が限局の場合が同様の急増が認められた。
公表による注目や速やかな紹介で増加した可能性、口腔がんによる死亡推移も要検討
同研究は、著名人の口腔がんの公表によって、診断数が急増することを明らかにした。口腔がんは先行研究より男性、50~80歳代、舌がんでの罹患が多いと報告されている。同研究は検査数の推移ではなく、罹患数の推移であるため、口腔がん罹患のボリュームゾーンでの急増が認められたと考えられる。がんの進展度が限局、口腔底がんの罹患が急増していることは、著名人のメディア報道によって、一般住民に口腔がんの存在が周知、注目されたことや、一般歯科医師が経過観察期間なく、確定診断のために口腔外科へ紹介されたことなどが考えられる。
同研究では、診断数について推移を観察したものであり、死亡数については検討を行っていない。生涯を通じて有害でない、あるいは治療の必要がない病変を検診や検査で見つけてしまい、それらを治療が必要なものと誤って診断してしまう過剰診断の可能性もあるため、今後の口腔がんによる死亡の推移についても検討を行う必要があると考えている、と研究グループは述べている。
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