複数世代にわたるDNAメチル化と生活習慣情報の参照データ基盤は未確立
東北大学は6月12日、三世代コホート調査に参加した妊婦から出産時に収集した新生児臍帯血、さらに妊婦本人と妊婦のパートナー(新生児の父)、新生児の祖父母の末梢血のDNAメチル化率を解析し、国内外の研究者が参照できるデータベースとして公開したと発表した。今回の研究は、東北メディカル・メガバンク機構(ToMMo)分子疫学分野の栗山進一教授、岩手医科大学いわて東北メディカル・メガバンク機構(IMM)の清水厚志副機構長らの研究グループによるもの。

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出生前から出生早期の環境は、その後の健康や病気のなりやすさに深く関係することが知られている。たとえば、妊娠中の母親の栄養状態や喫煙・ストレスなどが、生まれてきた子どもの将来の肥満、糖尿病、アレルギー、心疾患などのリスクに影響を及ぼす可能性があるとされている。
この考え方はDOHaD(Developmental Origins of Health and Disease)と呼ばれており、エピジェネティクスな変化の代表であるDNAメチル化によってその仕組みを説明しようとする研究が世界中で行われている。近年では、環境によるDNAメチル化状態の変化が親から子、さらには孫世代にまで伝わる「経世代エピゲノム継承」の可能性も議論されている。しかし、ヒトを対象とした経世代解析は困難であり、複数世代にわたるDNAメチル化データと生活習慣情報を網羅的に整備したリファレンスは、これまで存在していなかった。
三世代家系の約150万か所DNAメチル化率を解析、家系員別統計情報も公開
そこで東北メディカル・メガバンク計画では、三世代コホート調査に参加した妊婦から出産時に収集した新生児臍帯血、さらに妊婦本人と妊婦のパートナー(新生児の父)、新生児の祖父母の末梢血のDNAメチル化率を解析し、国内外の研究者が参照できるデータベースとして公開した。
常染色体上に存在する約150万か所のDNAメチル化サイトそれぞれについて三世代にわたる日本人家系(児を中心にみた父母・祖父母の7人のヘプタファミリーにより構成)158組1,093人の高品質なDNAメチル化データセットを構築し、家系員(児、父、母、母方祖父母および父方祖父母の7家系員)別の新生児臍帯血および成人末梢血のDNAメチル化率の平均値とばらつきを公開した。
iMETHYLデータベースでダウンロード・閲覧可能、将来的にjMorpでも公開予定
これらの統計情報は、IMMが管理するウェブサーバー上に構築されたan integrative database of human DNA methylation, gene expression, and genomic variation(iMETHYL)データベースから、テキストファイルとしてダウンロードできる。さらにデータベース内に構築されたゲノムブラウザ上で閲覧することも可能である。なお、ToMMoが管理するJapanese Multi Omics Reference Panel(jMorp)でも近い将来に公開する予定である。
疾患予測・経世代エピゲノム研究の基盤としての活用に期待
iMETHYLにて公開した三世代7人家族のDNAメチル化サマリー情報から、ライフステージごとの参照値の把握、疾患のエピゲノム研究との比較など、今後の疾患予測や経世代エピゲノム研究の基盤として広く活用されることが期待される。
東北メディカル・メガバンク計画ではこれまでに、ヘプタファミリーの家系情報、調査票(生活)および検体(血液・尿)検査情報、全ゲノムデータを取得してきたが、今回、DNAメチル化情報を取得したことで、遺伝要因・環境要因・エピゲノム要因の家族内での類似性もしくは異質性を三世代にわたって比較することが可能となった。「このデータを用いた経世代的な環境要因とエピゲノムの関連解析は現在進行中で、今後の論文発表が予定されている」と、研究グループは述べている。
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