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赤ちゃんは「ありのまま」を見る、生後半年までは錯覚が起きないと判明-北大ほか

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2023年12月11日 AM09:20

眼から入力された個別の情報、どのように1つの知覚として統合されるのか?

北海道大学は12月6日、生後半年未満の乳児では複数の特徴を誤って統合する「misbinding」という錯視現象が生じず、これらの乳児は大人とは異なり、世界をありのままに見ている可能性を示したと発表した。この研究は、同大の大学院文学研究院の鶴見周摩助教(中央大学大学院人文科学研究所)、日本女子大学人間社会学部の金沢創教授、中央大学人間社会学部の山口真美教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Proceedings of Royal Society B」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

ヒトの視覚システムは階層構造になっており、眼から入力された情報は最初に方位や色、動きといった各特徴として個別に分析される。その後、各特徴が1つの情報として統合され、主観的な知覚体験を生み出す。例えば、リンゴを見た時、「赤い」「丸い」「果物」といったそれぞれの特徴をひとまとめにして、「赤色のリンゴがある」と知覚する。この個別に処理された特徴がどのようにして1つの知覚体験として統合されるのかはいまだ議論されている。

近年重要視されている1つの説として、個々の情報を低次から高次へとまとめ上げるだけでなく、脳内の高次の視覚領域から低次の視覚領域へと情報を戻してまとめる「」の働きがある。このフィードバック処理が統合過程で機能することで、ヒトは統合された世界を知覚できると考えられている。しかし、この発達過程は不明であり、本当にフィードバック処理が重要なのかは明らかになっていない。そこで研究グループは、フィードバック処理が発達する前後の乳児期を対象にすることで、特徴統合過程におけるフィードバック処理の役割を検討した。

中央の色の運動方向に周辺の運動方向を誤って合わせてしまう錯視現象を利用

研究グループは「misbinding」という錯視現象に焦点を当てた。「misbinding」とは2種類の特徴(例えば色と運動方向)が誤って統合される錯視現象である。

用いられた動画では、赤と緑のドットがそれぞれ上下に移動しているが、周辺の左右領域の色と運動方向の組み合わせは、中央の領域と逆転している。この時、ヒトは各色が一方向にしか移動していないように知覚する。つまり、中央の色の運動方向に依存して周辺の運動方向も引っ張られてしまう。脳の中で都合よく全体を知覚するようにフィードバック処理が機能している可能性を示唆する錯覚である。これは、色と運動の2種類の特徴が誤って統合されてしまう様子を示しており、知覚が曖昧な周辺視野において安定をさせようとフィードバック処理が関与することで生じると言われている。

生後半年未満の乳児には錯覚が生じていないことを示唆する結果

今回の研究ではこの錯視現象が乳児でも起きるのかを検討した。実験では馴化法を用いて生後4か月から8か月の乳児に上述の動画を繰り返し提示した。その後、全部のドットが上あるいは下方向に移動する全体条件と、左右の領域だけ中央と逆方向に移動する分離条件の動画を提示した。

実験の結果、生後半年以降の乳児では分離条件の動画を長く注視した。これは錯覚が生じたため、全体条件の動きを見飽きていたためであると考えられる。一方で、生後半年未満の乳児では逆の結果となり、彼らは全体条件の動画を長く注視した。これは、錯覚が生じなかったため分離条件の動きに見飽きていたと考えられる。

以上の結果から、生後半年未満の乳児では錯覚が生じず、ありのままの映像を知覚していることが示された。この背景には、フィードバック処理が未発達であることが考えられる。一方で、生後半年以降の乳児では大人と同じように錯覚が生じた。フィードバック処理が機能することで複数の特徴を統合する働きが生じ、脳の中で外の情報を作り直していると考えられる。

外界の情報を脳の中で作り直すメカニズム解明につながる

生後間もない乳児の方が世界をありのまま見ていて、発達に伴って脳の中で情報を作り直すようになるのは一見不自然に思うかもしれない。しかし、フィードバック処理の発達によって、曖昧な情報を安定して知覚できるようになる。さらに、雑多な情報の中から効率良く情報の取捨選択をし、重要なものの処理を優先し、それ以外はある程度無視するためにも必須であることが考えられる。「本研究成果は、私たちが外界の情報を脳の中で作り直す過程のメカニズムの解明につながると期待される」と、研究グループは述べている。

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