LC-HP食は糖尿病による認知機能低下を改善できるか?
群馬大学は5月21日、2型糖尿病モデルマウスにおいて、4週間の低糖質・高タンパク質(LC-HP)食摂取が空間記憶機能を改善させることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大学共同教育学部の島孟留准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「The Journal of Nutritional Biochemistry」のオンライン版に掲載されている。

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世界の糖尿病患者数は6億人に迫ると推計されており、このうち90%以上を2型糖尿病患者が占めている。2型糖尿病は、末梢の諸器官のみならず脳にも悪影響を及ぼし、海馬が司る学習・記憶機能といった認知機能を低下させる。
LC-HP食は、肥満者や2型糖尿病患者の血糖コントロールに有効であり、食事療法の1つとして検討されている。研究グループはこれまでに、習慣的なLC-HP食摂取が健康なマウスの認知機能(作業記憶機能)を低下させることを報告している。しかし、LC-HP食は、2型糖尿病の食事療法として有用であることから、2型糖尿病に伴い低下した認知機能改善に寄与する可能性が考えられた。
2型糖尿病モデルマウスでLC-HP食の認知機能への影響を検証
そこで今回の研究では、習慣的なLC-HP食が2型糖尿病モデルマウスの空間記憶機能に及ぼす影響、ならびに神経可塑性に関わる海馬のmRNA発現へ及ぼす影響を検証した。
2型糖尿病モデルマウス(ob/obマウス)と健康なマウス(C57BL/6Jマウス)を、LC-HP食摂取群(炭水化物25.1%、タンパク質57.2%、脂質17.7%)、または通常食摂取群(炭水化物58.9%、タンパク質24.0%、脂質17.1%)で飼育した。4週間の食餌介入の後に、すべてのマウスにモリス水迷路試験(空間学習・記憶機能を評価する行動試験)を課して、空間記憶機能を評価した。
糖尿病マウスの空間記憶機能が改善、海馬の神経可塑性変化を示唆
その結果、LC-HP食摂取によりob/obマウスの空間記憶機能が改善することを確認した。また、ob/obマウスの海馬において、Lrp6、Wnt3aやIgf1rのmRNA発現も改善することを見出した。このことから、LC-HP食による2型糖尿病モデルマウスの空間記憶機能の改善には、海馬LRP6やWnt3a、IGF-1Rの変化を通じた神経可塑性の改善が関わることが示唆された。
糖尿病に伴う認知機能低下を改善する食事療法の確立に期待
今回の研究によって、2型糖尿病に伴う認知機能の低下を改善するLC-HP食の効果が明らかになった。さらに、その効果に関わりうる海馬内の分子標的候補が見出された。
「今後、LRP6やWnt3a、IGF-1Rの関与を詳細に調べることで、2型糖尿病患者の認知機能をより効果的に改善できる食事療法の開発につながることが期待される」と、研究グループは述べている。
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