がん細胞に酸素を与えない治療薬、逆にがんを悪化させる場合もあった
大阪大学は5月14日、大腸がんの表面近くの一部の場所で炎症を背景に酸欠状態が起きると、がんの成長を助けることを世界で初めて明らかにしたと発表した。この研究は、同大感染症総合教育研究拠点(CiDER)の原田昭和特任助教、菊池章特任教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Nature Communications」に掲載されている。

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これまで、がん細胞も正常の細胞と同じように、細胞が増えるためには、酸素を十分に受け取ることが重要だと考えられてきた。そのため、大腸がんの治療には、がん細胞に酸素を与えないようにする薬が、使われてきた。しかし、この薬がうまく効く場合は少なく、逆にがんを悪化させることもあることがわかり、なぜそうなるのか、その理由を明らかにすることが必要と考えられている。
大腸がんの炎症部位で線維芽細胞が酸欠により悪玉化と判明
研究グループは、大腸がんの表面近くの一部の場所で、炎症反応が強く見られ酸素が足りない「酸欠(低酸素)」の状態になっていることに注目した。そうした場所では、本来は大腸の骨組みを支えている線維芽細胞が、酸素が少ないことを感知して「悪玉」へと性質を変え、がん細胞の成長を助けるような物質(エピレグリン)を出していることがわかった。
炎症関連線維芽細胞がWntを発現し酸欠状態をさらに進行
さらに、この「悪玉」となった線維芽細胞(炎症関連線維芽細胞)は血管が作られるのをわざと邪魔する物質である Wntも分泌していて、周りに酸素が届かないようにして、自分の周りをもっと酸欠にしていることがわかった。つまり、がん細胞の影にかくれていた線維芽細胞が実は大きな役割を持っており、がんの一部の場所を酸欠に保ちながら、がん細胞をより悪くしていく、というような新しい仕組みが明らかになった。
線維芽細胞の悪玉化、大腸がんだけでなく炎症性腸疾患の原因解明にもつながる可能性
がん組織の中にはがん細胞や免疫細胞だけではなく、骨組みを支える線維芽細胞という細胞も含まれる。最近の研究で、この線維芽細胞ががんの進行に関わっていることが少しずつわかってきたが、まだこの細胞を狙った治療法はほとんどない。今回の研究で、線維芽細胞が「悪玉」に変わってがんの成長を助けてしまう仕組みを明らかにしたことで、がん細胞や免疫細胞に加えて、線維芽細胞も「第3の治療ターゲット」になることが期待されている。
「特に、大腸がんは日本で一番患者数が多いがんであるため、今回の研究成果はとても大きな意味を持つ。また、線維芽細胞の悪玉化は、大腸がんだけでなく、大腸の難病として知られる炎症性腸疾患にも関わっていることがわかり、将来の治療や原因解明にもつながると期待されている」と、研究グループは述べている。
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・大阪大学感染症総合教育研究拠点 プレスリリース