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遠い将来の健康目標に対する行動継続に、前頭極の脳構造が関与-東北大ほか

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2025年05月29日 AM09:10

行動持続力、健康行動の長期継続との関連は?

東北大学は5月21日、将来の健康に向けた良い習慣を継続させる脳の仕組みに注目し、支援する方法を検討した結果を発表した。この研究は、同大大学院情報科学研究科・加齢医学研究所の細田千尋准教授と花王株式会社の共同研究グループによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」に掲載されている。


画像はリリースより
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近年、糖尿病や高血圧などの生活習慣病が増加し、若いうちからの健康的な生活習慣の定着が社会的に求められている。しかし実際には、大学生を中心とした若年層で偏った食事や朝食の欠食が増え、将来の生活習慣病リスクや心身のウェルビーイングの悪化が指摘されている。健康行動を始めることは比較的容易であるが、すぐに目に見える変化がないため、継続が難しく、途中で挫折する人も少なくない。このような健康行動を長期間維持するためには、「GRIT(行動持続力)」が重要である。近年の研究グループの先行研究により、行動を持続する力に脳の前頭極(frontal pole cortex:FPC)が深く関与していることが明らかになっている。FPCは目標を見据えた行動や自己コントロールに重要な役割を果たしていることが示唆されていたが、健康行動のような予防的行動で、明確な達成目標のない長期的な行動の継続についての関連は明らかではなかった。

大学生約50人対象、食事日記の継続状況や食生活・心理状態の変化を調査

そこで今回の研究では、この前頭極の脳構造的特徴と個別化されたフィードバックが、若年層の健康的な食習慣を維持する上でどのような役割を持つのか明らかにすることを目的とした。平均21歳の健康な大学生約50人を対象に27日間の実験を実施。毎日の食事内容を記録する「食事日記」の継続状況や食生活・心理状態の変化を調べた。参加者は無作為に2つのグループに分けられ、一方の個別化フィードバック(PF)群では提出された日記データを分析し、各自の現在の食習慣の特徴や将来起こり得る健康リスクについて具体的なフィードバックが数日ごとに提供された。もう一方の対照(コントロール)群では、個人のデータに基づかない一般的な栄養に関する情報のみ(例えば「野菜をしっかり摂りましょう」等)が提供された。両群とも3日に一度フィードバックを受け取り、その翌日から再び食事日記を続ける流れを繰り返した。

個別化フィードバック群、ビタミンA・C/食物繊維など栄養素の摂取量「増」

両群の食事日記の提出状況を比較したところ、PF群は対照群に比べて日記の提出数が一貫して多いことが明らかになった。特にフィードバックを受け取った直後の日は、両群とも提出率が上昇する傾向が見られたが、その効果はPF群で顕著であった。また、27日間の介入期間全体を通して食事内容の変化を分析したところ、PF群は対照群よりもカルシウム、ビタミンA・C、食物繊維などの重要な栄養素の摂取量が有意に増加していた。さらに心理面への影響について、実験前後で不安傾向の変化を比較したところ、PF群では特性不安スコアが有意に低下し、対照群との差が確認された。

脳の前頭極発達の参加者、食事日記継続の傾向

一方、対照群(一般的アドバイスのみ)ではPF群ほど行動の変化は大きくなかったが、誰がより食事記録を継続できたかを左右する要因として脳の前頭極の構造特徴が見られた。参加者全員のMRI脳画像から前頭極の構造的特徴を測定し(灰白質の厚みや神経繊維の密度指標など)、日記提出数との関係を分析したところ、対照群では前頭極が発達している人ほど食事日記を継続する傾向が強いことがわかった。具体的には、対照群内では前頭極の皮質の厚みが厚い人ほど日記提出日数が多く、他の指標(ミエリン密度やFA値が高い人)も同様の傾向が見られた。これは、個別の支援がない状況では、前頭極が持つやり抜く力(GRIT)に個人差があり、その差が健康行動の継続に影響を与える可能性を示している。一方でPF群では前頭極の構造と日記継続との相関関係は見られず、脳構造に関わらず全員が高いレベルで行動を継続できていた。言い換えれば、個別化フィードバックの介入によって、前頭極の性質に起因する「続けられる人・続けられない人」の差が解消された可能性がある。

今後、前頭極の健康行動への影響など研究へ

研究グループは今後、脳の前頭極の働きをさらに深く理解し、どのように個人差が健康行動やウェルビーイングに影響を与えているのかを詳細に調べる予定としており、特に、個別化フィードバックが脳の可塑性にどのような影響を与えるかを縦断的に調査し、その神経メカニズムを明らかにするとの考えを示している。「このような脳科学的知見を基盤とした新しい健康支援手法を確立し、個人の脳特性に応じた、より効果的な健康習慣の維持・促進を目指す。さらに、企業や自治体での実用化を視野に入れ、職場や地域で誰もが無理なく続けられる健康増進プログラムの開発・実装を推進し、職場や学校、地域社会などさまざまな場面での健康増進やウェルビーイング向上に貢献することを目指す」と、研究グループは述べている。

 

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