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切除不能進行・再発大腸がん対象、タンキラーゼ阻害剤の医師主導治験開始-がん研ほか

読了時間:約 2分24秒
2025年05月23日 AM09:20

新薬望まれる切除不能進行・再発大腸がん、/β-カテニンシグナル遮断薬は開発困難だった

がん研究会は5月8日、タンキラーゼ阻害剤RK-582の国内初となる医師主導治験において、2025年3月に、1例目の患者への投与を同会有明病院(以下、がん研有明病院)にて実施したと発表した。この研究は、同会病院の佐野武本部長・病院長、消化器化学療法科の山口研成部長、篠崎英司副部長、野田哲生前研究本部長(現 名誉所長)、がん化学療法センター分子生物治療研究部の清宮啓之部長、理化学研究所環境資源科学研究センター創薬化学基盤ユニットの白井文幸上級研究員らの研究グループによるもの。今後、投与症例の経過観察を通じて慎重に評価が進められる。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

日本では年間15万人以上が大腸がんに罹患し、5万4,000人が大腸がんで死亡している。大腸がんは、早期であれば内視鏡治療や腹腔鏡下・開腹手術で対処可能であり、進行期においても、局所にとどまるがんや切除が可能な転移がんは治癒の可能性がある。しかし、切除不能進行・再発大腸がんは一般的に難治性であり、新薬の開発・提供が切望されている。

大腸がんの約80%は、がん抑制遺伝子APCの機能喪失型変異によりWnt/β-カテニンシグナルの亢進を示す。しかし、同経路には創薬展開が可能な標的分子が存在せず、このシグナルを遮断するがん治療薬の開発は困難とされてきた。ポリADP-リボシル化酵素ファミリーの一員であるタンキラーゼは、β-カテニンの抑制因子アキシンを分解に導くことでWnt/β-カテニンシグナルを増強する。このことから、タンキラーゼの阻害剤はアキシンの分解を阻害することでWnt/β-カテニンシグナルを抑制して、大腸がんの増殖などを抑える治療薬になる可能性がある。

タンキラーゼ阻害剤RK-582、PMDAと非臨床試験の充足性・治験デザイン合意し治験開始

研究グループが創製したタンキラーゼ阻害剤RK-582は、APC変異陽性大腸がん細胞のWnt/β-カテニンシグナルを遮断し、マウスゼノグラフトモデルにおけるin vivo腫瘍増殖を抑制した。これまでにラット、イヌ、およびサルなどを用いた毒性試験、安全性薬理試験、ADMEなどに関する検討を進め、治験開始に必要な非臨床データパッケージを構築した。医薬品医療機器総合機構と非臨床試験の充足性および第1相治験の治験デザインの適切性について合意に至り、がん研有明病院の治験倫理審査委員会の承認を得たのちに、治験を開始した。

世界初のタンキラーゼ阻害がん治療薬へ向け、重要な一歩となる可能性

この治験は、切除不能進行・再発大腸がんの患者を対象に、タンキラーゼ阻害剤RK-582の安全性および忍容性(主要評価項目)、ならびに有効性(副次的評価項目)を評価する第1相試験である(jRCT登録番号:jRCT2031240702、ClinicalTrials.gov:NCT06853496)。組み入れ基準を満たし、同意が得られた患者を対象に治験薬の投与を実施し、経過観察を行う。がん抑制遺伝子APCの機能喪失型変異により亢進したWnt/β-カテニンシグナルを遮断するがん治療薬は、いまだ世界で薬事承認されておらず、同治験がその道を切り拓くことが期待されている。

「本治験は、日本初のタンキラーゼ阻害剤を投与する第1相試験で、今後、順調に開発が進んだ場合には、世界初のタンキラーゼ阻害作用を有するがん治療薬となる可能性がある。そのため、本治験では限られた患者を対象とすることと、医療チームによる管理を徹底することによって、患者の安全を最優先に製剤の安全性や忍容性を評価する。併せて製剤の有効性も探索的に評価する。本治験が計画通りに完了すれば、切除不能進行・再発大腸がんの患者に対する新たな治療法を提供する重要な一歩となる可能性がある」と、研究グループは述べている。

 

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