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抗菌薬投与で起こる再発性C. difficile関連腸炎の治癒メカニズムを解明-大阪市大ほか

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2021年02月12日 AM11:00

再発性C. difficile関連腸炎の改善で腸内微生物叢の「構成」は変化、「機能」は?

大阪市立大学は2月10日、再発性Clostridioides difficile関連腸炎患者の糞便移植治療の前後およびドナー糞便の腸内細菌叢と腸内ウイルス叢を詳細に解析したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科 ゲノム免疫学の植松智教授(東京大学医科学研究所附属ヒトゲノム解析センター メタゲノム医学分野 特任教授、附属国際粘膜ワクチン開発研究センター自然免疫制御分野 特任教授を兼務)、藤本康介助教(東京大学医科学研究所附属ヒトゲノム解析センター メタゲノム医学分野 特任助教、附属国際粘膜ワクチン開発研究センター 自然免疫制御分野 特任助教を兼務)、東京大学医科学研究所附属ヒトゲノム解析センター 健康医療インテリジェンス分野の井元清哉教授らの共同研究グループによるもの。研究成果は、「Gastroenterology」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより

消化管内には細菌やウイルスをはじめとした常在微生物叢が存在し、私たちの健康に大きな影響を与えている。次世代シークエンサーをはじめとしたゲノム解析技術の進歩に伴い、常在微生物叢解析が盛んに行われるようになった。特に、腸内細菌叢の乱れと疾患(肥満、糖尿病、関節リウマチ、炎症性腸疾患など)との関係性が明らかとなり、乱れた腸内細菌叢を是正することで治療につなげようとする研究が世界中で進められている。

C. difficileは健康な人の腸管にも常在している菌の1つで、普段はおとなしくしている。さまざまな感染症の治療に抗菌薬は有用だが、広域スペクトルの抗菌薬が使われて正常な腸内細菌叢が破壊されると、C. difficileは増殖し、2種類の毒素を出す。これにより、発熱や下痢を主症状としたC. difficile関連腸炎が起こることがある。国内では、使用していた抗菌薬を中止し、C. difficileに感受性を持つバンコマイシンやメトロニダゾールといった抗菌薬の投与によって改善を認めることが多いとされている。ところが、欧米ではC. difficileの強毒株の出現や抗菌薬に対する耐性化などにより、治療がうまくいかなかったり、再発したりするケースが多数報告されており、そのような場合には、糞便移植治療が非常に有効だと報告されている。糞便移植治療は、国内ではまだ臨床研究が進められている状況だが、欧米ではすでに治療ガイドラインに取り入れられている治療法だ。しかし、再発性C. difficile関連腸炎の改善に伴って、腸内細菌やウイルスの構成が変化することは知られているものの、その機能の変化については、これまでほとんど明らかにされていなかった。

糞便移植前は炎症関連腸内細菌が腸炎を誘導、移植後には腸内細菌叢の機能が回復

研究グループは今回、米国ボストンのブリガム・アンド・ウィメンズ病院で糞便移植治療が奏功した再発性C. difficile関連腸炎患者9例、およびそのドナーの糞便サンプルから腸内細菌ゲノムと腸内ウイルスゲノムを抽出し、それぞれ全ゲノムシークエンスを実施。さらに、昨年報告した腸内細菌と腸内ウイルスの解析パイプラインを用いて、その構成割合と感染関係の解析を行った。解析の結果、糞便移植治療前のサンプルでは、抗菌薬の使用に伴った腸内細菌叢の乱れが起こり、ガンマプロテオバクテリア綱の細菌が増加するとともに、カウドウイルス目のウイルスが増加していた。一方、治療後のサンプルでは、バクテロイデス綱・クロストリジウム綱の細菌とミクロウイルス科のウイルスが増加していた。また、治療後の腸内細菌叢およびウイルス叢はドナーの腸内細菌叢およびウイルス叢に近づいていることがわかった。

さらに今回得られたシークエンスデータを用いて腸内細菌叢の機能解析を行った結果、糞便移植治療前では、炎症と関連するフルオロ安息香酸分解経路が特徴的に認められ、移植前で増加し、移植後に消失したガンマプロテオバクテリア綱の細菌がこの経路に関わっていることが明らかになった。移植後では、腸内細菌叢はドナーの構成比に近づいただけでなく、ドナーの腸内細菌叢が持つ機能に近づく(腸内細菌叢の機能が回復している)ことが明らかとなった。アルギニンおよびオルニチン代謝経路、2次胆汁酸合成経路が糞便移植治療後で特徴的であり、機能の回復によって病態の改善につながっていることがわかった。以上のことから、再発性C.difficile関連腸炎における病態形成に関わる菌群や、腸内細菌叢の機能回復に重要な菌群、遺伝子が明らかになった。

糞便移植治療の改善や代替治療の開発につながる可能性

米国では強毒株のC. difficileが出現しており、再発性C. difficile関連腸炎は国際的な社会問題となっている。今後、日本においてもそのリスクは増大すると考えられる。治療が非常に難しい再発性C. difficile関連腸炎に対して、糞便移植治療は非常に効果的であり期待される治療法の1つだ。しかし、移植に用いるドナーの糞便に関して、未だ「正常である」という定義ができていないため、安全性が非常に危惧されている。そのため、近親者をドナーとすることが多く、治療法としてはとても限定的なものとなっている。さらに、多剤耐性大腸菌を移植され死亡した例が2019年に複数報告され、現在糞便移植治療法の改善が強く望まれている。

今回の一連の解析により、再発性C. difficile関連腸炎において、治療標的とする菌の同定ならびに腸内細菌叢の回復機構が明らかになった。「本研究は、今後の糞便移植治療の改善や代替治療の開発への大きな一歩につながる」と、研究グループは述べている。

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