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物の価値を環境によって判断する脳の仕組みをサルで解明-筑波大ほか

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2021年01月20日 AM11:45

環境情報は脳内でどう表現され、いかに選択変化をもたらすのか?

筑波大学は1月18日、物が置かれた環境を判断する際の重要な手掛かりとなる「背景」に着目し、サルを使った実験で、その学習メカニズムを探った結果、脳の深部にある「線条体尾部」と呼ばれる領域で、背景情報と物体の価値情報が統合されることによって、環境ごとにどの物体の価値が高いかを学習していることを発見したと発表した。この研究は、同大医学医療系(トランスボーダー医学研究センター)助教の國松淳氏、米国国立衛生研究所Distinguished investigatorの彦坂興秀氏らの研究グループによるもの。研究成果は、「米国科学アカデミー紀要」(PNAS)に掲載されている。


画像はリリースより

物体の価値は環境や状況によって変化するが、ヒトは経験や学習に基づいてそれを適切に判断して選択することができる。従来の考えでは、ヒトの脳は特定の刺激に対する反応で得た報酬によって、物体価値を学習するとされている。しかし、このメカニズムだけでは環境の情報が考慮されていないため、1つの状況での物体の価値しか学習することができずに、環境に依存して価値判断を変化させることができない。研究グループは、環境の情報は脳内でどのように表現され、いかに選択を変化させているのだろうかと考え、環境を判断する際の重要な手がかりとなる「背景」に着目し、その神経表現と物体価値との関係を調べた。

投射ニューロンは背景ごとの物体の価値情報、介在ニューロンは背景情報を保持

今回の研究では、背景によって物体の価値が変化する行動課題(背景依存的物体選択課題)を考案し、アカゲザルの訓練を行った。この課題では価値(報酬量)が異なる2つの物体(フラクタル図形)が大きな背景画像の上に提示される。同じ物体でもその価値は背景によって変化するため、サルは多くの報酬(リンゴジュース)を得るために背景によって価値の高い物体をきちんと学習しなければならない。たくさんの背景を用いるために、画像はGoogleEarthの衛生写真から作ったという。

研究グループの先行研究から、長期の学習に基づいた物体の価値判断に線条体尾部が重要な役割を果たしていることがわかっており、同部位が環境に依存した物体選択にも関与している可能性が考えられた。今回、解剖学的な検証によって線条体尾部では他の線条体領域と比べて抑制性介在ニューロンが多いことが発見され、同部の抑制性介在ニューロンが特別な情報処理を担っていると考えられた。

そこで研究グループは、サルが上記の背景依存的物体選択課題を行なっている時に、線条体尾部の抑制性介在ニューロンと、これまで物体価値に関わる活動を示すことが報告されている投射ニューロンの役割を調べた。抑制性介在ニューロンは投射ニューロンに信号を伝えて線条体内で局所回路を形成している。それぞれのニューロンの活動を記録した結果、投射ニューロンは特定の背景のときに物体の価値に従って活動を変化させた。一方で、抑制性介在ニューロンは物体の種類や価値に対しては活動を変化させず、背景によって異なった神経活動を示した。これにより、投射ニューロンは背景ごとの物体の価値情報を、介在ニューロンは背景の情報を保持していることが判明した。

抑制性介在ニューロンの活動阻害で、背景と物体の価値の組み合わせが不能に

もし、介在ニューロンが持つ情報が背景依存的な価値判断に重要であれば、神経活動を人工的に操作することで何らかの変化が引き起こされる可能性がある。そこで、線条体尾部に微量の薬物を注入して抑制性介在ニューロンの活動を阻害したところ、物体の価値のみを学習することに影響はないが、背景と物体の価値を組み合わすことができなくなると判明。これらの結果は、抑制性介在ニューロンの信号が背景ごとに変化することで投射ニューロンを操作し、背景依存的に物体価値の学習をコントロールしていることを示唆しているという。

報告論文の中で研究グループは、投射ニューロンと抑制性介在ニューロンの活動変化をドーパミンによる神経修飾とヘッブ則をもとに数理モデルで説明することにも成功し、新しい学習メカニズムの存在を提案している。「環境情報がどのように脳内で処理されているのかをさらに明らかにしてその動作原理がわかれば、汎用性のある新しいAI技術の開発に応用できると期待される。また、線条体の抑制性介在ニューロンの減少がハンチントン病やトゥレット障害といった病気で報告されており、今回の研究結果はこれらの病態の解明を促進すると考えられる」と、研究グループは述べている。

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